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フォレストラー侯爵家への嫁入りは急ピッチで進められた。
お父さまから婚姻の話を聞いてから、一週間で私はフォレストラー侯爵家に向かうことになった。すでに、結婚誓約書は国王陛下に出されていると言うから驚きだ。
そんなに早急にことを運ばなければ、逃げられるとでも思っているのだろうか。
私はフォレストラー侯爵様との婚約期間がほぼないまま、嫁ぐことになってしまった。
「アルメシア。ごめんなさいね。急な話で。」
「まあ、いいのよ。フィラーレ。……それにしても、よりによってフォレストラー侯爵様だなんて……。」
アルメシアは暗い表情で私の顔をチラッと見た。目の縁が赤く腫れあがっている。
「駄犬に婚約破棄を言い渡された時、覚悟したわ。私にまともな縁談が来るはずがないって。むしろ、修道院に入ろうかと思っていたくらいだもの。」
「まあ。……でも、修道院に入った方が幸せかもしれないわよ?」
アルメシアは真っ白なハンカチで目元を押さえながら擦れた声で茶化したように言う。
私はにっこりと笑みを浮かべた。
「そうね。そうかもしれないわね。」
「どうして……フィラーレは平気なの?あの、フォレストラー侯爵様よ?」
「ええ。知っているわ。婚約者が皆、謎の死を遂げているのでしょう?」
「そうよっ!フィラーレだって、もしかしたらっ……。」
アルメシアはそこまで言うと、小刻みに震える。ハンカチで顔全体を隠してしまったため、アルメシアの表情は見えない。けれど、長年アルメシアと付き合いのある私には、今、アルメシアがどんな気持ちでいるのか手に取るようにわかる。
私はギュッと拳を握りしめる。
大きく一度深呼吸をして、思いっきり息を吐きだして正常心を保つ。
「噂話に過ぎないでしょう?もしかしたら侯爵様はとってもお優しい方かもしれない。それに、今まで謎の死を遂げた人たちは婚約者でしょう?私はすでにフォレストラー侯爵様と婚姻を結んでいるの。もう、婚約者ではないわ。」
「それはっ!そうだけど……。」
謎の死を遂げているのは婚約者という関係の女性だけ。すでに正式に婚姻が受理されている私にはその条件は当てはまらない。
だから、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
それに、この婚姻はすでに国王陛下の名の元に承認されているのだ。今さらよほどの理由がない限り婚姻を破棄することなんてできるわけがない。
「……私、怖いわ。」
「あら。どうして?」
アルメシアは顔を真っ青にしてぶるぶると震えている。
人形のように整ったアルメシアの顔が今は能面のようにも見える。
「だって、あまりにも早すぎるもの。手際が良すぎる。フィラーレが婚約破棄されてからフォレストラー侯爵様と婚姻を結ぶまでの手順があまりにも早すぎるのよ。まるで……。」
「そう。まるで、最初から用意されたシナリオのように。って?」
アルメシアの言葉を遮って私は言葉を紡いだ。
「ええ。そうよ。」
アルメシアは確かめるようにゆっくりと頷いた。
私は真っ赤に彩られた唇の端をそっと上げる。
「あまりにも完璧なタイミングなのよね。だから、気になってしまって。確かめてみようと思っているの。誰が、この計画を立てたのか、を。」
「フィラーレっ!それはっ……。あまりに危険だわっ!」
アルメシアが悲鳴にも近い声を上げる。
「……許せないのよ。私のことを……私の人生を言いように扱おうとしている人物が。一泡吹かせてあげなければ、ねぇ。」
腹の奥底から込み上げてくるどす黒い物を感じる。
「フィラーレ……。」
アルメシアがなにか言いたげに視線をよこしてきたが、私はそれをまるっと無視してにっこりと微笑んだ。
見てらっしゃい。
私は今までのようなレールの上を歩いていた貴族令嬢とは違うんだからっ。




