光の行方
天気は快晴。
王女の門出を寿ぐかのような素晴らしい青空の下を、輿入れ一行はゆっくりと進み出す。
居並ぶ豪奢な馬車の列は、車輪を軋ませながら異国の地を目指す。煌びやかな装束を纏った衛兵たち。その蹄の音が石畳に高く響き、風にたなびく両国の旗が彩りを添える。
沿道の民の歓声が、行列の進行とともに空を埋めつくす。
「サーシャさーん!! あっ、あそこにいる! ねえ、今こっち見ましたよね絶対?」
背の低いピコが人垣の後ろの方でぴょんぴょんと跳ねる。
隣では前夜までの疲れを顔ににじませたフレネが、しみじみと目を細めていた。
お針子たちが作り上げた数々のきらびやかな衣装が、光の道を描いていく。
「ピコの声をサーシャさんが聞き逃すはずがないさね」
「ああ〜、サーシャさんほんっとうに綺麗! ローディック姉妹を初めて見た感動を思い出します」
行列が通り過ぎると集まっていた人々が散り始める。
縫製室の片づけのため、ピコたちも名残惜しさを振り切って踵を返した。
人垣のさらに後方に、その男女はいた。
姉弟というよりも、令嬢と小姓のように見える二人の会話が耳に入る。
「メリンダ様、帰りましょうよー」
「いやよ! 帰ったってお姉様はいないんだもの! ソーマだけ帰ればいいのよ!」
ピコはフレネが止めるのも構わずに駆け出し、うずくまるメリンダの顔を覗き込んだ。
隣から「あっ、小さい人は話しかけないほうが……」と聞こえたが、ピコは気にしない。
「メリンダ様、ですよね? あたしピコっていいます! 王女宮でお針子やってます!」
メリンダはちらりと目をやったが、すぐに興味なさそうにそっぽを向いた。
「あたし、サーシャさんと一緒に仕事してたんです。お仕着せ作るとき、メリンダ様の話もたくさん聞きました!」
「お姉様が、私の話を……?」
メリンダはうずくまるのをやめて、ピコの話を聞きたがった。
ソーマは珍しいものを見るような目をしていた。
「それでね、サーシャさんの『芯』が何か、結局聞けないままなことがひとつだけ心残りなんですよねー。ね、メリンダ様は何かわかります?」
メリンダは力なく首を横に振った。
「そんなの、わかるわけがないわ……。芯なんて自分にだってないんだもの。私の光は、遠くへ行ってしまったし」
彼方を見るメリンダの視線をたどりながら、ピコは軽い調子で「ふーん」と言った。
「あたしの光は、ローディック姉妹でしたよ。あたし、あなたを見てお針子になろうって決めたんです」
「え……」
メリンダと目が合ったピコがニッと笑う。
「小さい頃あたし、メリンダ派だったんですよ」
メリンダは胸元をぎゅっと握る。
光は去った。
けれど心のなかには、自身の光が小さくまたたいていた。
次が終章となります。
最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。




