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再会の約束

「今、隣国行きって、言ったのか……?」



 呆然とする様子のカイに、サーシャは恐る恐る確認する。


「カイさん……今日の用件、何だと思ってました?」


「……その、ここでの臨時雇いが終わってから、ゆっくり俺に会う時間を作るのが嫌なのかと……」


 心なしか身を小さくするカイに、呆れとも愛おしさとも知れない感情が込み上げる。


「だからさっさと呼びつけて、さっさと終わらせてしまおうって、私が考えたと?」


「……だって、あんた大商会の娘なんだろ。それくらい合理的でもおかしくないと思ったんだよ」


 だんだんと小さくなる声でそう言って、カイは頭をかき回してうなだれてしまった。


 ──本当に、この人は。

 察しが良いのか悪いのかわからないカイがおかしくて、サーシャは笑いがこらえきれなくなった。

 最初は喉の奥で耐えていた。けれどすぐに含み笑いになり、それから手で押さえないといけないほどになって。


 サーシャにつられてカイも笑った。

 思い返せば、こんなに笑ったのはずいぶん久しぶりかもしれない。


 笑いすぎて目尻にたまった涙を拭うサーシャを、カイがじっと見つめている。



「なあ」


 真剣なカイの声。


「戻ってくるのか?」


 サーシャはハッとして慌てて頷く。

 いちばん肝心の話をまだ言っていないことに気づいた。

 カイの方へと身を乗り出し、眼鏡越しではない瞳を見据える。


「戻るわ。私、必ず戻ります。だからカイさん──」


 サーシャの肩がピクリと跳ねて、言葉が止まる。

 カイの指がサーシャの手に触れていた。


「……だから?」


 低い声に促される。


「……帰ってきたら、会ってください」


 カイは小さく笑った。


「待ってろって言わないのか?」


「何年先になるか、わからないもの。カイさんを縛りたくない」


 カイの手がサーシャの手を覆った。

 チェストの上、二人は肩が触れそうな距離で座っている。


「わかった。じゃあ、言葉はなくていい」


 サーシャの手が握られる。自分のものよりも少し温度の高い大きな手。


 室内の明かりが遮られ、唇に熱が触れた。

 一瞬の出来事だった。




「カイさんって、実はかっこいいんですね」


「そうか? 普通だと思うが。あんたこそ、綺麗な顔してて驚いた」


「知りませんでしたか? ローディック商会の看板娘ですから」


 二人は顔を見合わせて笑った。




 夜の王女宮の一角。小さな光に照らされた小部屋。

 遠くの喧騒をよそに、静かに言葉が交わされる。


「じゃあ、行ってきます」


「ああ、サーシャ、行ってこい」


 二人を繋ぐのは、再会の約束だけ。

お読みいただきまして、ありがとうございます。

次回の更新が最後となります。よろしくお願いします。

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