表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】サリシャの光 〜商会の娘が紡ぐ夢〜  作者: ねるね
思い出と執着
51/67

 一日の業務を終え帰り支度に向かおうとしたサーシャを、ローラが呼び止めた。


「サーシャちゃん。少し耳に入れておいたほうがいいと思って」


 いつもの親しみのある口調だったが、その声音はわずかに低い。


「あなたが作ったお仕着せが、盗作だって噂が出回っているの。王宮の外から来た人を中心にね」


 盗作──強い言葉に思わず息が止まった。

 サーシャの衝撃を察したローラはすぐに言葉を続ける。


「王女宮の人たちは経緯を知っているから気にしなくていいわ。ここではみんなあなたに感謝こそすれ、そんなこと信じていないもの。ただ、何も知らない人があなたにどんな感情を向けるかわからないから、一応知っておいてもらいたくて」


 ローラの痛ましそうな表情が、その噂がある程度広がっていることを物語っていた。


 

 ──王宮で広まってるなら、貴族にも噂が……?


 噂、評判。

 それが商会にどれほどの影響を与えるのか、身にしみて知っている。


 すぐに商会へ問い合わせたサーシャのもとに返ってきた便りは、スタンリー直筆のものだった。


『影響は出ていないから気にしなくてよい。むしろ騒がないことが最善』


 落ち着き払った文面に、いくぶんかは安堵する。

 けれど前もそうだった。今大丈夫でも、今後どうなるかはわからない。


 不安は消えないまま、数日が過ぎた。




 所用で王宮に出向いたサーシャは、一人の女性に廊下で声をかけられた。


「あなたサーシャさんよね?」


 見知らぬ女性だった。自身と似た年頃だが、その顔に笑みはない。


「私、この間まで女学校にいたの。メリンダさんから直接聞いたのよね。ここのお仕着せ、メリンダさんと一緒に考えたって」


 従妹の名と告げられた内容に一瞬頭が真っ白になるが、息を吸ってどうにか答えた。


「……それは本当です。子供の頃に一緒に遊んだことを思い出して作りました。でも──」


 声がわずかに震える。


「本当にあの子が、メリンダがそう言っていたのですか? 二人でお仕着せを考えたと?」


 女性は少しだけ視線を逸らした。


「そこまでは言ってなかった、けど。でも、二人で思いついたことをあなただけの手柄にするのって、ズルくない?」


 静かに、けれどはっきりとサーシャは言った。


「それをメリンダから直接言われたなら、私は彼女と話します。私たちの思い出を盗ったと断じられるのは、彼女だけです。あなたではありません」


 女性は何かを言おうとして、結局何も言わずに、けれどひと睨みだけを残して去っていった。




 言いたいことは言った。

 けれど胸の奥には、砂粒が広がっていた。


 本当にメリンダが?

 彼女がどんな話をしたのかは、今のサーシャには確かめようがない。

 それでも、もしメリンダが望むなら。

 お仕着せが二人の思い出から生まれたものだと公にしてもいい。謝罪だってする。


 けれど、それに意味はあるのだろうか。




 廊下を歩いていると視線を感じることが増えた。ひそやかな声と、サーシャを見て途切れる会話。

 そんな時は自分の足音だけがやけに響いた。


 気にしないようにしても、心が重い。



 ──カイさんなら何て言うかな。


『俺には聞こえない』

『そんなこと気にするだけ無駄だ』

『あんたは胸を張ってろ』

 全部サーシャの中の想像だ。


 もし本当に、今あの人の声を聞いたなら、少しだけ泣いてしまうかもしれない。


 だから、今は想像の中でだけ会えたらそれでいい。




 その日の夕刻、母から手紙が届いた。

 入っている紙は一枚。書かれた内容も短いものだった。


『メリンダが会いたがっているわ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ