表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/67

善意の懇願

 彼らと会ったのは、少なくともサーシャにとってはまったくの偶然だった。


 隣国使者団と国内の貴族子息との交流会が行われたこの日、サーシャはライナスについて王女宮の広間に来ていた。


 参加している子息のなかの二名が手洗いのため中座を申し出て、サーシャは彼らを先導して広間を出た。


 案内の者に子息を預け、サーシャが会場に戻ろうとすると、彼らは「あなたに案内を頼みたい」と言う。

 その申し出に、サーシャは特に疑問も抱かず頷いた。



 彼らの歩く速さを気にかけながら廊下を進んでいると、後ろでひそやかな話し声がしてから、恐る恐るといった様子で話しかけられた。


「あの、ローディック姉妹のサーシャさん、ですよね?」


 久々に聞いた名前にハッとする。

 そうだった、自分を知っている人がいても何もおかしくはない。そう思い、返事をするために作った笑顔はまたすぐに固まった。


「ニックには、もう会いましたか?」




 サーシャは息を切らせて早足で進んでいた。

 後ろからはサーシャを呼ぶ声が聞こえる。



 あれから彼らは「ニックがハンカチを返したがっているから会ってやってほしい」とサーシャに頼んできた。


「それは……私と約束を取り付けることを、ニック様が貴方様方に依頼したということでしょうか」


「いや、そういうわけではないけど……。でも、いつかあなたに返したいって、寮にいた時はいつも話していたんです」


 サーシャは目を伏せ、少し逡巡してから言った。


「あれはニック様に差し上げたものですから、気になさらなくていいとお伝えいただけますか。私がお気に入りだったなどと言ったせいで、かえってご迷惑をおかけしました」


 手洗いに到着したため、今度こそ案内を別の者に代わり、サーシャは一礼して去ろうとした。


「待ってください!」


「ニックは今は官吏になって、外務部にいるんです」


「そうだ、今から僕らと行きませんか。彼のいる部署は知っているので、案内しますよ」


 彼らは手洗いに行く足を止めて、サーシャに近づこうとする。

 サーシャは彼らの必死さに押され、一歩、二歩とあとずさる。


 彼らが顔を見合わせている間に、サーシャは振り返ってその場をあとにした。




 ──落ち着いて、足をただ前へ


 背後の気配に神経をやり、足を動かす。


 彼らに追いつかれても、冷静に話せばいいだけのことだ。ニックと会うこと自体、サーシャは避けたいと思ってはいない。


 けれどこんな風に誰かのお膳立てで再会の機会を作る、そんなことはしたくはなかった。

 ニックの意思で、あるいはサーシャの意思で、再会は果たされるべきだと思う。



 そんなことをとりとめもなく考えながら、いくつもの角を曲がり、前に進む。少しでも見慣れた方へ、安心できる方へ──


 背後の声と足音は、近づいたり遠ざかったりを繰り返して、徐々に迫りつつあった。



「サーシャさん! 待って! 少しでいいんだ!」


 背後の声がいよいよ角の向こうまで近づいたその時。

 すぐそばの扉が慌ただしく開いた。


「サーシャ!」


 自身を呼ぶ声に目を見張る。


 声の主はサーシャの腕をつかみ、部屋へと引き入れた。

 素早く扉を閉め、施錠する。

 カイは表情を固くしたまま、外の足音が遠ざかるのを聞いていた。

お読みいただきまして、ありがとうございます。

次回は4月4日(土)に3話投稿します。新章「思い出と執着」に入ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ