思い出す
事件は早い収束を迎えた。
あれからフレネとも話したところ、さらにいくつかのことがわかった。
「いや私もね、これは長引くぞ、なんて思ったんだよ。なのにカイさんときたら、すぐに押収してくるんだからたまげたよ」
「何かものすごい交渉術とかあるのかしら。示談金……はないか。カイさんそういうの一番嫌いそう」
「本人は、普通に話しただけだなんて言ってるがねえ。それでその針子は、誰かもわからん相手から金をもらって作ったって言っててね。王宮の針子が情けないもんだよ」
サーシャはふと引っかかった疑問を口にする。
「あの店はどうして『お仕着せの原型』なんて言ってたのかしら」
「さあねえ。王宮で話題になるほど良いものには見えなくて原型ってことにしたとかじゃないかね。ま、きっと小悪党の浅知恵さね」
──ああ、そうか。
唐突にサーシャは腑に落ちる。
二度目の偽物騒動で、自分があれほど取り乱した理由に思い至った。
お仕着せの本当の原点。メリンダと笑い合った幼い日。
そのあたたかい思い出までもが、あの偽物に踏みにじられたように感じたのだ。
犯人はわかり、その針子は王宮を辞めた。店に『お仕着せの原型』が飾られることはもうない。
けれどサーシャの心の中には、ざらりとした砂粒が残った。
ある日、ライナスの部屋付きの侍女がまた一人増えた。
リゼという名の彼女もまた、ローラが連れてきた人材だった。
ライナスが散乱させてしまった隣国からの荷物。それらを片付けるために呼ばれたリゼは、ライナスと話をしながらまたたく間に作業を終わらせてしまう見事な手際を見せた。
その手腕もさることながら、サーシャが最も目を引かれたのは、彼女の髪に揺れるリボンだ。
サーシャがローディック商会で商品化にこぎつけた生地『サリシャ』。
そのサリシャで作られたリボンに、リゼは時々無意識に触れていた。きっと彼女にとって大切なものなのだろう。
サリシャを流通させている商会の人たちや、ドレス工房のネネとルルに思いを馳せる。
彼らのおかげでサリシャは日々誰かを笑顔にしている。それを目の当たりにできて嬉しかった。
──今なら彼とも普通に話せるかな
サリシャのことを考えると、いつも思い出す少年。もう学園を卒業して、今ごろ彼は何をしているのだろう。
渡したハンカチのことをしきりに気にしていたけれど、会わないうちにもう捨ててしまったかもしれない。
でも、それでいいと思った。
彼とは歩む道がほんのひととき交差しただけだ。彼は彼の、自分は自分の道を進めばいいと、そう思えるようになったサーシャだった。
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リゼは前作「ルースの祈り」の主人公です。このお話にはそれほど登場しない予定です。




