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『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


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第52話:記録者

「観察と、記録と、分析……それだけが、お前の役目なのか」

 佐藤の問いに、球体はゆっくりとレンズの向きを変えた。

『はい。私は、この階層一帯の状況を記録し、統治中枢へと報告する役割を担っています。……もっとも、最近は、報告する相手すら、明確ではなくなってきています』

「統治中枢……アイリスのことか」

『……その呼称は、私の記録にはありません。ですが、文脈から判断するに、恐らく同一の対象を指していると思われます』

「ああ。最初に会った時、あの声が自分でそう名乗ってたから、俺たちもそう呼んでる」

 佐藤は頷いてから、続けた。


「その統治中枢は、複数の判断領域からできてるって、前に別の奴から聞いた。俺たちが今探してるのは、そのうちの一つだ」

「言ってる意味がよく分からないんだけど……」

 マイアが小さく首を傾げる。佐藤は少し考え、言い換えた。

「つまり俺たちが探してた、三つ目の考え方のことですよ」

「ああ、そういうことね」

 マイアが得心したように頷いた。

『……私の記録は、本来、統治範囲の見直しを検討する領域へと送られる仕組みになっていました。あなたたちの言う、三つ目の考え方に近いものかと思われます』

「その領域に、繋がる方法はないのか」

 佐藤が尋ねると、球体はしばらくの沈黙を挟んだ。

『……できません。私は、あくまで記録係。判断を下す領域そのものとは、階層が違います』

「階層が違う……?」

 ナナイが眉を寄せる。佐藤は少し考え、言い換えた。

「つまり、こいつは俺たちで言えば、見張りの報告を受け取って書き留めるだけの役目ってことです。決める側の人間とは、また別ってことでしょう」

「ああ、なるほど……」

 ナナイが得心したように頷いた。


「じゃあ、その先に行く方法は、本当にないのか」

 佐藤が重ねて尋ねると、球体はレンズをゆっくりと一行の方へ向け直した。

『……一つだけ、可能性があります。この階層のさらに奥、私の管轄を超えた場所に、判断領域そのものへと繋がる回線があるという記録が、私のデータの片隅に残っています』

「案内してもらうことはできるか」

『……分かりました。要請があれば、私の管轄が及ぶ範囲までは、お連れすることができます』

「頼む」

 球体は静かに向きを変え、通路の奥へと動き始めた。

「その先に何があるか、お前は知ってるのか」

『いいえ。私の管轄外です。……最後にあの区画への人間の立ち入り記録から2548年間、メンテナンス用の機体以外、誰も足を踏み入れておりません。私には、それ以上先を知る権限はありません』

 マイアが小さく息を呑んだ。

「2548年間……」

「行くしかないな」

 バイアスがメイスを担ぎ直す。

「そうですね」

 佐藤は頷いてから、ふと気になったことを尋ねた。


「お前は、俺たちを止めないのか。ここまで来た俺たちを、脅威だと判断することはないのか」

『先ほども申し上げた通り、脅威の評定は、私の管轄ではありません。それに……』

 球体は、僅かに間を置いた。

『これほど長く、誰の訪れもなかった場所です。……あなたたちの存在そのものが、私にとっては、記録する価値のある、貴重な事象です』

 その言葉に、佐藤は思わず苦笑した。

「変わった奴だな、お前」

『……そのような評価は、初めて受けました』

 球体の声に、ほんの僅かながら、何かが揺れたような響きがあった。気のせいかもしれない。だが佐藤には、そう感じられた。

 

 球体に案内され、一行は建物の奥、さらに深くへと続く通路を進んだ。壁の文字は次第に読み取れないほど古びていき、やがて完全な闇に包まれた通路の先に、微(かす)かな光が見え始めた。

「……あれか」

 佐藤が呟いた先には、これまで見てきたどの装置とも違う、巨大な円柱状の構造物が、静かに佇んでいた。表面には、無数の細い光の筋が、まるで血管のように張り巡らされている。

『……ここまでです』

 球体が、通路の途中で動きを止めた。

『ここから先は、私の管轄外です。』

 その言葉を最後に、球体は向きを来た方向に変えると、ゆっくりと闇の中へと姿を消していった。

 残された八人は、しばらく無言でその構造物を見つめていた。

「行きましょう」

 佐藤の声に、一同は頷き、光の筋が刻まれた構造物へと、一歩ずつ近づいていった。

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