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『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


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第49話:古い言い伝え

マイアの傷は、思ったより浅かった。ナナイが手早く薬草を刻み、傷口に当てて布を巻く。

「……ありがとう。この程度で済んで、運が良かったよ」

「無理はしないでください。しばらくは大人しくしていて」

 佐藤の言葉に、マイアは苦笑しながらも頷いた。


 広間には、待機していた仲間たちが揃っていた。ジャインが杖を突きながら、ゆっくりと佐藤の前に座る。

「……無事に戻ったようで、何よりだ。それで、収穫はあったのか」

「はい。三つ、分かったことがあります」

 佐藤は指を折りながら話し始めた。


「一つ目は、あの機械の中に、三つの違う考えを持つ領域があるということ。二つ目は、そのうち一つ……俺たちを追い払おうとする考えが、今のところ一番強く出やすいということ。三つ目は、もう一つ別の考えを持つ領域があって、そいつがどう出るかは、まだ誰にも分からないということです」


「三つ目、というのは」

 ジャインが眉を寄せる。

「統治の範囲を、狭めるべきだと考えている……らしいです。詳しいことは、融和型の声自身も分かっていないようでした」

 その言葉に、ジャインは長い沈黙を挟んだ。杖を握る手に、僅かに力が込められる。


「……サトウよ。それを聞いて、儂は一つ、思い出したことがある」

「何でしょうか」

「儂の父も、そのまた父も、代々語り継いできた古い話だ。……昔、この地に人が初めて逃げ込んだ頃、まだ何も分からなかった時代の言い伝えでな。『地の底には、外の声を厭(いと)う、もう一つの声がある』というものだ」

「地の底の声……」

「詳しいことは、儂も知らん。ただ、そういう言葉だけが、口伝で残っておる。子供騙しの昔話だと、儂もずっとそう思っておったが……」

 ジャインは、テーブルの上に置かれた結晶体をじっと見つめた。


「今日の話を聞くと、あながち作り話でもなかったのかもしれん、と思えてきた」

 佐藤は身を乗り出した。

「その言い伝え、他に何か手がかりになるようなものは残っていませんか。場所とか、印とか」

「儂の記憶にはない。だが……」

 ジャインは少し考え、口を開いた。

「アスラの工房に古い記録が、何かあるかもしれない。アスラの家系は代々、廃品から色々なものを掘り出してきたはずだ。誰かアスラを呼んできてくれ。」

ジャインの言葉を受け、ナナイが工房まで呼びに走った。しばらくして、鍛冶場から呼ばれたアスラが、煤(すす)で汚れた顔のまま広間に顔を出した。


「言い伝え、ですか……はて。うちの蔵には、確かに古い紙切れが色々ありますが……字が潰れてて読めないものも多くて」

「読めるものだけでもいい。一度、見せてもらえないか」

「構いませんよ。今から持ってきましょうか」

 アスラが工房へと引き返していく背中を見送りながら、クロが小さく欠伸をした。


「……ヒロ、なんか話がどんどん大きくなってない? 最初はただ、みんなで安全に暮らせればいいって話だったのに」

「そうだな」

 佐藤は苦笑した。

「だが、ここまで来て、知らなかったことにはできない。もし本当に、三つ目の力を味方につけられるなら……この先の道が、少しは開けるかもしれない」

「そっか」

 クロは佐藤の隣に腰を下ろし、ぽつりと呟いた。

「……あたし、ヒロについていくよ。どこまでも」

「ああ。頼りにしてる」

 その短いやり取りを、部屋の隅からロセスがにやにやと眺めていることに、二人はまだ気づいていなかった。

 

 しばらくして、アスラが古びた木箱を抱えて戻ってきた。中には、色褪せた紙の束と、錆びついた金属の板が幾つも収められている。

「これが、うちに伝わる一番古い記録です。読める部分だけでも、目を通してみますか」

 佐藤はその一枚を手に取った。滲(にじ)んだインクの向こうに、辛うじて読み取れる文字が並んでいる。


「……『中枢よりさらに深く、光の届かぬ場所に、退(しりぞ)くことを望む意思在り』」

 広間が、しんと静まり返った。

「これは……」

 マイアが息を呑む。

「三つ目の領域の、手がかりかもしれない」

 佐藤は紙面を見つめたまま、静かにそう呟いた。

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