第42話:新星
ロセスを見送った佐藤は、ふと思い出したように傍らのミリへ向き直った。
「ミリ、さっきの続きだけど……お前の役割は荷運びと資材管理、それと斥候だ。ただし条件がある」
ミリが息を呑む。
「俺の指示に従わなかったり、勝手に危険な真似をした瞬間に強制送還する。二度目はない。……いいな?」
「はいっ! 私、絶対に約束します! 私、新しい世界が見れるんだ……!」
弾けるような笑顔を見せるミリを連れ、一行は鍛冶場を後にした。
コミュニティの通りに出ると、ざわめきが波のように広がった。先頭を行くのは一人の少年だ。その後ろを、リーダーのマイア、大剣を背負ったラブル、そして馴染みのミリが静かに付き従っている。
さらに、見たこともない黒髪の美少女が、佐藤の腕にぴったりと寄り添っていた。
「おい、あれを見ろよ……」
「マイア様にラブルまで、なんであの少年の後ろを……」
住人たちが呆然と立ち尽くす中、人混みを割り、この地下コミュニティでは異質な眩いばかりの装飾を施した男が突き進んできた。
男は周囲の困惑など目に入らない様子で、クロを捉えた瞬間に雷に打たれたように足を止めた。
「……おお、なんという美。地下の暗がりに咲く一輪の黒百合か!」
男は佐藤を路傍の石のように無視し、クロの目の前で大仰に膝をつく。
「麗しき黒髪の君。僕の名はアルシー。君という光を見つけた今、僕の剣は君を守るためだけに存在する。……さあ、僕の手を」
佐藤は、目の前で繰り広げられる時代がかったナンパ劇を、冷めた目で見守っていた。中身が50歳の佐藤からすれば、あまりに突拍子もない若者の暴走にしか見えない。
クロはアルシーを一瞥だにしない。それどころか、佐藤の腕をさらに強く抱き寄せ、冷徹な声で言い放った。
「……消えろ。不快だ」
虚空で止まったアルシーの手が、屈辱に震える。そこでようやく、彼はクロの視線の先にある存在に気づいた。
「……おや? 君、いつからそこにいたんだい? 影が薄すぎて、石像か何かかと思ったよ」
アルシーは不思議そうに首を傾げ、初めて佐藤の顔をまじまじと覗き込んだ。
「あの、あなたはどなたですか?」
佐藤はいきなり現れてあっさり撃沈した男に聞いた。
「私の名はアルシー。そこの可憐な花のために生まれてきた華麗で男前な剣士さ。そういう君こそこの艶やかな女性とどんな関係なんだい」
と、クルリと一回転してクロに腕を伸ばすポーズで決めた。
(変なヤツだな。んー、飼い主とペットと言うのもなぁ⋯⋯)
「まぁコイツとは長い付き合いで⋯⋯」
と言葉を濁す佐藤にクロが
「ヒロはアタシのもの!アンタもうどっか行って!!」
と言って佐藤の腕につかまりながら、厳しい目でアルシーを睨み返した。
「おぉー、怒った顔もなんて素敵なんだ!君の横にいるべきはそんな貧相な男ではなく、僕こそがふさわしい!」
その光景を横で見ていたマイアが我慢出来ずに間に割って入った。
「ちょっとアルシー、あたし達は今忙しいからこれくらいにしな!」
「これはマイア殿ではありませんか。ここのリーダーであるあなたがなぜこんな見栄えもしない者と一緒にいるんですか?」
あまりのしつこさにマイアはうんざりした顔で
「この人達は私の仲間なんだ。ヒロ、クロもう行こう」
といってアルシーに背を向けて二人を促し歩き始めた。すると背後からアルシーが大きな声で叫んだ。
「おぉー、クロという名前なのですね!なんて麗しい名前なんだ!クロたん、今度ゆっくりとお話しましょう!」
佐藤は後を振り返りながらマイアに聞いた。
「マイアさん、あの人はいったい?」
「アイツはアルシーっていってね、女とみればだれ彼構わず声をかけるヤツなんだ。腕は確かなんだけどねぇ」
佐藤は後ろで大きく手を振って小さくなっていくアルシーを見ながらこの先、面倒な事になるような予感がして、ため息をついた。




