第43話:再出発
地下コミュニティの宿舎。ジャインの厚意で借りているその部屋の扉が、威勢よく叩かれた。
「ヒロ、起きてる!? アスラから連絡があったよ、準備ができたって!」
マイアの声だ。隣には、早くもやる気満々のラブルもいる。
一行が向かったのは、地熱を利用した巨大な炉が鎮座する鍛冶場だった。そこでは、筋骨隆々の大男――アスラが、仁王立ちしていた。
「おう、サトウ! 待ちわびたぜ。あんたのアドバイス通り、一筋縄じゃいかなかったが……最高のもんが仕上がったぞ!」
アスラが差し出したのは、鈍い銀光を放つ特製のバール。
「鉄を三層で叩き上げて、仕上げにここらで一番硬ぇ材質を外側に使った特製品だ。そこらの化け物の外殻なら、一撃で叩き伏せられるはずだぜ!」
「……重いな。だが、この重さが頼もしい」
佐藤がその柄を握り、重さを確かめるように振ると、空気を切り裂く鈍い音が響いた。
続いてアスラは、傍らに立てかけられた巨大な獲物を指さした。
「ラブル、お前の大剣も調整しといたぜ。サトウの野郎が言った通りに重心を少し手前に寄せてな。……振ってみな」
ラブルが期待に目を輝かせ、愛用の大剣を手に取る。
「わっ……すごい! 軽いわけじゃないのに、吸い付くみたいに動くよ! 刃の研ぎも、今までと全然違う……!」
今まで力任せに振っていた大剣が、まるで体の一部になったかのような扱いやすさに、ラブルは満足げに何度も頷いた。
さらにアスラは、奥から布に包まれた細長い包みを取り出し、マイアへと放り投げた。
「ほらよ、マイア。お前さん、上から戻ってきた後に自慢の鉄砲が壊れたってしょげてたろう。お前さんの分も新しく作っておいたぜ」
「えっ、アスラ……! いいの!?」
「ああ。弾丸も、今までより硬ぇ金属を削り出した特製だ。貫通力は段違いだが、材料が少なくて数はない。ここぞって時に大事に使いな」
マイアは感激した面持ちで、新しいパイプライフルを抱きしめた。
広場に出ると、出発の準備を整えたバイアスやミリたちが待っていた。そこへ、人混みを割って現れたのは、芳しい香りを漂わせるロセスだった。その背には使い込まれた短弓が見える。
「あら、楽しそうな面々ね。私も混ぜてもらおうかしら?」
「ロセス!? どうしてアンタがここにいるの!?」
マイアが目を見開く中、ロセスは佐藤の隣に音もなく滑り込み、その耳元で囁くように微笑んだ。
「ええ、この『サトウさん』という不思議な男性に、興味が湧いちゃって。……いいわよね、リーダー?」
「ちょ、ちょっと! 何よ急に!アタシらは遊びに行くわけじゃ⋯⋯」
マイアの顔が赤く染まる。ロセスのあからさまなアプローチに激しい動揺を隠せない。だが、それ以上に激しい反応を見せたのは、佐藤の腕に文字通り「しがみついていた」クロだった。
「……離れろ。その女、キライ!ヒロはアタシのもの!!」
クロの瞳が鋭く細まり、周囲の空気がわずかに震えた。クロ本人が、自分の体から発せられた不可解な波形に戸惑うように、自分の手を見つめている。
「……ふふっ、あなたも相変わらずね。そう、『ヒロ』さんっていうのね。ふふ、素敵な呼び方。私もこれからはヒロさんと呼ばせて貰うわね。」
ロセスは余裕の笑みを浮かべ、確信犯的に呼び方を変えた。
「おぉー! なんて凛々(りり)しい威嚇なんだ、クロたん!」
そこへ、場違いな感嘆の声を上げて割り込んできたのはアルシーだ。クロがどこかへ行くという噂を聞きつけ、なりふり構わず飛んできたらしい。
「アルシー!! アンタまで何しに来たの!?」
マイアの叫びも虚しく、アルシーは一直線にクロの前で膝をついた。
「君という光を追わずして、何が剣士か! 僕も共に行こう、君を守る盾としてね!」
アルシーは優雅にレイピアを抜き放ってポーズを決める。その光景にバイアスが口を怒声をあげる。
「アルシー!てめぇ何しに来やがった!」
「おや?何か雑音が聞こえると思ったら脳筋バイアス君じゃないか。君には何も用は無いから気にしないでくれたまえ」
「⋯⋯てめぇ!」
様々な個性の面々を前に
「やれやれ……。先が思いやられるな」
佐藤は深く溜息をついた。
8人の一行は、アスラの見送る槌音を背に、未知なる上層階層への階段を登り始めた。




