第41話:鉄と火の洗礼
「ここがコミュニティの心臓部、鍛冶場だよ」
マイアの案内に従い、佐藤は熱気と金属音が渦巻く一角へと足を踏み入れた。同行するラブルは、背負った大剣の重みを感じさせない足取りで隣を歩いている。
岩壁を背にした巨大な炉の前で、一人の逞しい男が汗まみれで槌を振るっていた。
「アスラ、少し手を止めてくれないか。新しい仲間を紹介しに来た」
マイアの声に、男――アスラは槌を置き、太い腕で顔の汗を拭った。
「あん? 新しい仲間だと? ……おいおい、マイア。そこのひょろっとした男が、噂の『上の世界』から来た男か」
アスラは疑わしげな視線を佐藤に向ける。佐藤は一歩前に出て、アスラに向き合った。
「初めまして、アスラさん。佐藤といいます。マイアさんたちにお世話になっている者です」
「サトウか。……ふん、律儀なこった。で、何の用だ? ここは世間話をする場所じゃねえぞ」
「実は、ラブルさんの剣について少し相談がありまして」
佐藤はラブルの背にある大剣を指差した。
「さっき彼女が素振りをしているのを見たんですが……その大剣、振り抜いた後に少し振り回されている感じがするんですよ。重心が先端に寄りすぎているんじゃないかな、と」
その言葉に、ラブルが「えっ?」と驚いたように目を丸くした。
「ちょっとサトウ、あたしの剣にケチつけるの? これ、威力は最高なんだから!」
「いや、威力は認めるよ。でも、重い荷物を扱う時も、重心がズレていると振り回されて無駄な力を使うんだ。先端を少し軽くするか、手元を重くしてバランスを整えれば、ラブルさんならもっと楽に、もっと速く扱えると思うんですよ」
アスラは意外そうに鼻を鳴らした。
「……ほう。戦士でもねえあんたが、この剣の癖を見抜いたか。確かにその大剣は威力を重視しすぎだ」
「そうなの……?」
ラブルは自分の獲物をまじまじと見つめ、少し不安そうに首をかしげた。佐藤は道中で拾っておいた黒ずんだ重い金属の破片を差し出した。
「これ、さっき拾ったんですが、妙にずっしりしてて頑丈そうです。これを手元の重りに使えませんか?」
「……どれ。……おい、こいつはいい。サトウ、あんたは『ゴミ』の中から宝を見つけるのが上手いな。いいだろう、俺に任せな。とびきり硬い奴で叩き出して、バランスを完璧に整えてやるよ」
「ありがとうございます。それから……俺の身を守る道具もお願いしたいんです。戦うためじゃなく、相手の武器を引っ掛けて逸らすための『杖』です。俺は素人ですから、受け流して逃げるための道具が欲しくて」
佐藤が地面に描いたのは、先端が少し鉤状になった丈夫なバールのような杖だった。
「がはは! 戦う気ゼロの武器とは珍しいが、作ってやるよ」
その時、鍛冶場の入り口に人影が立った。
「……サトウさん」
ミリだった。彼女はまだ、旅への同行を断られたことを諦めていない目で見つめてくる。
「私、どんな手伝いでも何でもします。だから……」
「ミリ、君には改めて話をしようと思ってたんだ。君には⋯⋯」
佐藤が言いかけたその時、背後の薄暗い通路から、艶やかな声が響いた。
「あら、アスラ。新しいお客さん? 随分と盛り上がっているじゃない」
振り返ると、そこには妖艶な雰囲気を纏った女性が立っていた。彼女はアスラに預けていたであろう、手入れの終わった鋭いナイフを受け取りながら、佐藤をじっと見つめた。
「もしかして……あなたが噂のサトウさんかしら?」
「ええ、そうです。失礼ですが、あなたは?」
「私はロセス。……ふふ、あなた⋯⋯いい目をしてるわね」
ロセスは歩み寄ると、佐藤の耳元に顔を寄せ、アスラに聞こえないほどの小声で囁いた。
「今度、ゆっくりお話ししましょう。ここの生活は、火花よりも熱いことがたくさんあるわよ?」
その瞬間、佐藤の後ろにいたクロがその光景を見て、強い警戒感を持った目でロセスを睨みつけ、佐藤の腕にぎゅっとしがみついた。
「あら……。この子、案外独占欲が強いのね」
ロセスは余裕の笑みを浮かべたまま一歩下がり、ひらひらと手を振って去っていった。
「……おい、サトウ。あの女には気をつけな。ロセスはいい女だが、それだけじゃねえぞ。……いや、今は言わぬが花か」
アスラは意味深に笑い、再び槌を振り上げた。




