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『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


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第40話 新たな力

「サトウ。あんたも食べな。何をするにもまずはお腹を満たさないとね!」

 コーテが差し出したのは、乾燥肉と根菜の無骨な汁物だ。佐藤は「ありがとうございます」と受け取り、マイアとクロの隣に腰を下ろした。


 隣の席では、巨大な大剣を壁に立てかけた少女が、猛然と食事を平らげている。

 マイアがその少女に視線を送り、佐藤に小さく頷いた。

「ラブル。食事中に悪い。少し話を聞いてくれるか?」

 マイアの呼びかけに、少女――ラブルは木匙きさじを止め、不思議そうに顔を上げた。

「マイアさん? ……で、そっちの人は? 新しくここの仲間になったって人?」

 佐藤はラブルの目をしっかりと見ながら軽く会釈した。


「食事中に申し訳ない。……佐藤と言います。少し、相談があって来ました」

「サトウ? ……ああ、例の『上』に行ってきたっていう」

 佐藤たちが上の世界に行ってきたという事は、狭いコミュニティ内では知らぬ者はいないニュースであった。ラブルの目が、わずかに好奇心で細められる。


「それで、アタシに何の用?」

「君の力を貸してほしいんです。先日、俺たちは上の世界を見てきました。そこは、俺たちが住むこの地下とは全く違う、豊かな資源と高度な技術にあふれた場所でした。ですが同時に、そこは神ではなく『アイリス』という意思に支配され、人間をただの部品として扱う、血の通わない世界でもあった。俺は、そんな一方的な支配を壊したい。上の人達も地下の人達も、安心して楽しく陽の光の下で暮らせる場所を取り戻したいんです。……そのためには、並の戦士では到底太刀打ちできない。君のような、圧倒的な力を持つ腕利きが必要なんです」


 ラブルの動きが止まった。聞いたこともない「支配」や「技術」という言葉に、困惑と驚きが混じった表情を浮かべる。

「……本気? 今まで、アンタ達以外、誰も行ったことがない場所に、わざわざまた自分から乗り込もうっての?」

「本気です。俺一人じゃ辿り着けない。だから、あなたの力が必要なんです」


 ラブルは鼻で笑い、無造作に汁物を口に運んだ。

「悪いけど、アタシは命を安売りしないよ。……で、報酬は何? アタシを納得させるだけの何かがあるわけ?」

「……もっと美味いものを食べたくないですか? ちょっと待っててもらえますか」

 佐藤は立ち上がり、厨房のコーテに一言断って中へ入った。そこにある地下のスパイスと、熱した肉脂を素早く合わせ、即席の香味ペーストを作る。

 席に戻った佐藤は、ラブルの汁物にそのペーストを一匙ひとさじ落とした。


「食べてみてください」

 不審げに匙を動かしたラブルの顔が、一口含んだ瞬間に劇的に変わった。単調だった塩味に、暴力的なまでのコクと香りが加わっている。

「……っ! 何これ、全然違う!」

「俺のいた場所の知恵です。俺と一緒に来てくれるなら、武器の改良のアイデアも出せるし、この場所にはない『味』を毎日提供すると約束します」


 ラブルは大剣を引き寄せ、力強く肩に担いだ。

「……面白いね。あんたの言う『上』って場所のことはよく分からないけど、その知恵と、特にその〘新しい味〙には興味がある」

 ニヤリと笑ったラブルが、手を差し出した。

「いいよ。サトウの『用心棒』、引き受けた」

「ありがとう、ラブル。あなたが来てくれるならとても心強いわ」

マイアが笑みを持ってラブルを歓迎する。そして佐藤の後ろにいたクロは、また女性が仲間に加わったことに、少し警戒感を持ってラブルを見ていた。


 契約を終え、食堂を出たところで「サトウさん!」と鋭い声が響いた。

 駆け寄ってきたのは、ミリだった。年の頃は14、5歳というところだろう。

「私も、私も連れてって! 私は上ってどんな所か知りたい。サトウさんに迷惑は絶対に掛けないからお願いします!」

 その必死な瞳に、佐藤は静かに首を横に振った。

「ミリ。こればかりはダメだ。命の保証ができない場所に、君を連れて行くわけにはいかない」

「……っ」

 ミリは言葉を失い、溢れそうになる涙を堪えるように唇を噛んだ。彼女は何も言い返さず、背を向けて走り去った。


 その日の夜。

 鍛冶場への帰り道、佐藤は廃材置き場で足を止めた。

 闇の中で、ヒュッ、ヒュッと鋭い音が響いている。

 見れば、そこにはミリがいた。

 彼女は廃材の紐を両手に巻き付け、それをむちのようにしならせ、鉄の塊に打ち付けていた。

「……っ、くそ……!」

 ミリの指先は、摩擦で赤く腫れ、血が滲んでいる。それでも彼女は、涙を拭うことさえせず、一心不乱に打ち込みを続けていた。

 佐藤は、声をかけることができなかった。

 彼女の覚悟が、ただの子供の憧れなどではないことを、その光景が何よりも雄弁に物語っていたからだ。

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