第37話:帰還
白く塗りつぶされた、清潔すぎて不気味な街並みを、四人の影が駆け抜ける。
アイリスの警報は今も背後で鳴り響いているが、一度その監視の網をすり抜ければ、迷路のような都市の構造は、かつて配送で路地裏を熟知していた佐藤の味方となった。
(この道は見覚えがある。あの変な記号の入ったパネル……。そうだ、あっちだ!)
佐藤の脳裏に、この世界に初めて降り立った時の記憶が鮮明に蘇る。管理官と警備ロボットに追われ、死に物狂いで逃げ回ったあの道。角を右に曲がった瞬間、洗練された白亜の壁には似つかわしくない、使い古された――どこか「生活の澱み」を感じさせるハッチが姿を現した。
「ここから下に戻れます。行きましょう!」
佐藤が先導し、重い円形の蓋を力任せに引き開ける。底の見えない暗い穴が、一行を手招きしていた。
佐藤を先頭に、迷うことなく次々とその闇へと身を投じる。
ごうごうと風を切る音が耳元で鳴る。
最初にこの穴へ落ちた時は、追われる恐怖と混乱で何も感じ取れなかった。だが今は違う。佐藤は、落下していく自らの体に生じる、奇妙な感覚に意識を向けた。
(……滑り降りていくスピードが、遅い?)
垂直に近い急勾配を落ちているはずなのに、重力に逆らうような緩やかな浮遊感が全身を包んでいる。目を凝らせば、穴の壁面の所々に、淡い青色を放つ発光体が埋め込まれていた。その光の層をくぐり抜けるたびに、不可視の力がクッションのように落下の勢いを殺いでいく。
(なるほどな……。理屈は分からんが、この仕組みがあったから、地下千メートルまで生身で辿り着けたのか)
それは、上の世界が捨て去ったはずの地下へ、なおも「何らかの意思」が繋がっている証拠のようにも思えた。
やがて、足元にほんのりと煤けた光の出口が見えてきた。
「みんな、踏ん張れ!」
佐藤の叫びと共に、四人の体は穴から放り出された。
ガシャガシャと耳障りな音を立てて着地したのは、見慣れた、しかしどこか安心感を覚えるガラクタの山だった。
「……痛たたた。……ここは、町の裏のゴミの山」
マイアが顔をしかめながら、煤だらけの服を叩いて立ち上がる。――降り積もった文明の残骸に、彼女は呆然と視線を彷徨わせた。
上空を見上げれば、遥か高みに、自分たちがいた「白亜の牢獄」が、薄暗い天井に隠れて見えなくなっていた。
「……サトウ、これからどうするの? あんな奴らと、どうやって……」
ナナイの不安げな問いに、佐藤は真っ直ぐ前を見据えた。
かつて自分が運んだ荷物と同じように、この世界が抱える「重み」を正しく届ける場所は、もう決まっている。
「ジャインさんのところへ行きましょう。……俺たちが何を見てきたか、みんなに伝えるんです」
50歳の経験値が告げている。敵がいくら強大であっても、必死に生き抜いてきたコミュニティの力があれば、この歪んだ静寂に穴を空けられるはずだと。




