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『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


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第36話:叛逆の号砲

鳴り響く警報サイレンは、静止した都市の断末魔のようだった。

 赤い回転灯が、無機質な広域監視ルームを不気味な血の色に染め上げ、一定の間隔で壁を撫で回している。


「クロ、走れるか!」

「……ええ。アンタに手を握られたままじゃ、転ぶこともできないわよ」

 クロは青白い顔を上げ、強気に口角を上げた。その黄金色の瞳には、アイリスへの恐怖を塗りつぶすほどの、佐藤への信頼が宿っている。


「サトウ! 向こうから、重たくて硬い足音がたくさん響いてくる!」

 ナナイが、腰に帯びた二本の短剣を握りしめ、怯えを含んだ声を上げた。

 佐藤は即座に周囲を見渡した。この部屋は袋小路ではないが、どこへ逃げても、あの冷徹な声の主が先回りしてくる。

「マイアさん、先頭をお願いします! ナナイさんは後ろを。クロを真ん中に入れて、一気に駆け抜ける!」

「了解だよ! ったく、この世界の神様ってのは、随分としつこい性質タチのようだね!」


 マイアが長剣を引き抜き、正面の「透明な壁」へと体当たりを仕掛けた。だが、厚みのある板はビクともせず、鈍い衝撃音が室内に響くだけだった。焦りが走る中、隣にいたクロが静かに前に出た。

「私に任せて」

 クロがつぶやくと、その黄金色の瞳が妖しく輝き出した。両手の爪がその輝きに呼応するかのように、不気味な漆黒しっこくへと変色していく。

 クロは振り上げた両手を、渾身の力を込めて透明な壁へと振り下ろす。

 鋭い衝撃が走り、壁に幾筋もの亀裂が入ったと思った次の瞬間、音を立てて壁が崩れ落ちた。


「クロ! お手柄だ!」

 佐藤が短くそう言ってクロの頭を撫でると、彼女はふいと顔を背けた。

「……こんなことぐらいで、いちいち大袈裟よ」

 口ではそう言っていたが、その頬はわずかに赤らみ、佐藤に褒められた喜びを隠しきれない笑みがこぼれていた。


 一行は雪崩れ込むように、迷路のような白い通路へと躍り出た。

 背後からは、床を削りながら迫る機械兵たちの、金属同士が擦れ合う不快な音が反響している。

(……効率だの最適解だの。勝手に決めつけて、勝手に排除かよ。冗談じゃねえぞ)

 佐藤は荒い息を吐きながら、無機質な回廊をがむしゃらに駆ける。


「サトウ! 前、また大きな『動く壁』が閉まろうとしてる!」

 ナナイが通路の先を指差し、悲鳴に近い声を上げる。そこでは、巨大な金属板が天井からゆっくりと降りてきていた。完全に閉まれば、この先は行き止まりだ。

「……止まれッ!」

 佐藤は足を止めると同時に、腰のポーチからスリングショットと金属ボルトを掴み出した。

 震える手でゴムを引き絞る。

 一発目は、無情にも金属扉の表面に当たって跳ね返った。

 二発目も、焦りから狙いが逸れて壁を削る。

 背後の駆動音は、もう角の向こうまで迫っている。

「……頼むぞ、クソッ!」

 三発目。放たれたボルトは、閉まりきる寸前の隙間――レールの噛み合わせ部分に、火花を散らしながら強引に食い込んだ。

 ギギギ……と耳をつんざく異音が響き、扉がガタガタと震えて停止する。

「今だ、潜れ! 壁はすぐにでも動き出す!止まるな!」

 四人は這いつくばるようにして、閉じきる寸前の隙間を滑り抜けた。

 直後、背後で「ガコン!」と重い衝撃音がし、完全に沈黙する。そこには追っ手を遮断する、即席そくせきの壁が出来たのだった。


 辿り着いたのは、冷たい外気を感じる細い点検用の通路だった。

 「……はぁ、はぁ……。サトウ、今のも……あんたの勘なの?」

 ナナイが、肩を上下させながら不思議そうに問いかけてきた。

「勘なんていいもんじゃないですよ。ただ……運を無理やり引き寄せただけです」

 佐藤は荒い息を整えながら、膝の震えを隠すように笑った。

 その瞳には、50歳の慎重さをかなぐり捨てた、反逆者はんぎゃくしゃの炎が静かに、しかし激しく燃えていた。

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