第34話:白銀の共鳴
「不法侵入者。最終警告を拒絶。……排除を開始する」
無機質な音声が広場に響き、重装歩兵たちの電磁銃に青い火花が走った。
「くっ、ここまでなの……!?」
マイアが長剣を構え直すが、その表情には絶望の色が濃い。ナナイも短刀を握る手に力を込めるが、銃火器を前にしては肉薄する前に蜂の巣にされるのは明白だった。
佐藤は、震えながら自分を庇い続けるクロの小さな背中を見つめた。
(……扉の時は、クロの言った通りにしたら動いた。この石だって、あの白銀の騎士の一部だったんだ。なら、アイツらの無線を狂わせる「割り込み」くらいはできるはずだ……!)
佐藤はポーチから、鈍く光る結晶体を取り出した。
配送の仕事中、トンネルの中でラジオに激しいノイズが乗った時、放送が全く聞こえなくなったのを覚えている。強い波が弱い波をかき消す、あの現象だ。
「ヒロ、アタシから絶対離れちゃダメだからね!」
クロが顔を向けずに、必死の覚悟で叫んだ。その瞳は、黄金色から次第に淡い輝きを帯び始めている。
「ありがとう、クロ。……俺に考えがある」
佐藤は一歩踏み出し、クロの隣に並んだ。そして、掌に結晶体を包み込んだまま、迷うことなくクロの小さな左手を握りしめた。
「なっ……! ちょっと、アンタ何すんのよ! 今はそんなことしてる場合じゃ……」
「クロ、俺の言う事をよく聞いてくれ!」
佐藤は彼女の言葉を遮り、真っ直ぐにその瞳を見つめた。
「オマエに見えるあの『ゆらゆらしたもの』を、この石に流し込むんだ。出来るか?オマエの力なら、きっとアイツらへの命令をかき消せる。アイツらの耳元で、デカいノイズを鳴らしてやるんだよ」
理屈じゃない。今まで生きてきた中で培った、勝負所の勘だ。
クロは一瞬、驚いたように目を見開いた。だが、佐藤の手の温もりと、結晶体を通じて伝わってくる彼の「確信」が、彼女の迷いを一気に吹き飛ばした。
「……ふん。アンタがそこまで言うなら、やってみるわ」
クロが不敵に口角を上げた。
「そのかわり、失敗しても責任取らないからね!」
その瞬間、二人の繋いだ手から、暴力的なまでの光が溢れ出した。
クロの両目が黄金から、凍てつくような白銀色へと変色する。
「お……おおおあああああッ!!」
クロの咆哮とともに、結晶体から目に見えるほどの震動が放たれた。それは重装歩兵たちのヘルメット内にある通信端子へと直接叩き込まれ、排除の指令を強引に上書きしていく。
『エラー。上位命令を……ガガッ……識別不能……ノイズが……あ、あぐあああッ!!』
一糸乱れぬ動きを見せていた兵士たちが、突然耳を押さえてうずくまった。密閉されたヘルメット内の端子から火花が吹き出し、過負荷による熱が彼らの精神を灼く。
「今だ! マイアさん、ナナイさん!」
佐藤の叫びが、呆然としていた二人の意識を呼び戻した。
「よくわかんないけど……上等じゃないの!」
マイアが地を蹴った。混乱し、銃口を下げた敵の隙を逃さない。
「ナナイ、右の二体を! 残りは私がやる!」
「了解! ……全く、とんでもないコンビだね!」
ナナイが風のように踊り、動揺する歩兵の装甲の隙間に短刀を沈める。
そして、白銀の瞳を輝かせたクロもまた、佐藤の手を離すと、弾かれたように戦場へと飛び出した。
「邪魔よ、この人形ども!」
その一撃は、もはや猫の爪という領域を超えていた。白銀の光を纏った一閃が、厚い特殊合金の装甲を、中の生身ごと無造作に切り裂いていく。
白亜の都市の入り口で、絶望をひっくり返す逆転の嵐が吹き荒れた。




