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『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


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第33話:蒼穹の罠

ダクトの出口が近づくにつれ、空気の質が変わった。

 無機質で、刺すように乾いた冷気が鼻腔を突く。佐藤にとってはどこか懐かしい、空調の効いたビルのロビーのような匂いだ。

 ナナイが音もなく格子の外を覗き、短く手信号を送った。そこは、地上へと繋がる垂直昇降ロビー。広大な円形の空間には、数基の巨大な柱のような昇降機が鎮座し、その周囲を青い光のラインが幾何学模様のように走っている。


「……変な形の置物が、あちこちに張り付いてる。クモ……いや、脚の多い気味の悪い虫みたいなやつが三体」

 ナナイの視線の先、天井の隅や柱の影に、多脚を持つ小型の機械が張り付いていた。不規則にレンズを光らせ、獲物の微かな振動を待っている。

「マイアさん、ナナイさん、あいつらは動きが速そうだ。僕が注意を引きます」


 佐藤は背負い袋を下ろし、手製のスリングショットに鋭利な金属片をつがえた。

 硬質な接触音。佐藤が放った一撃が反対側の壁に当たり、甲高い音を立てる。

 反応した機械が、凄まじい速度で壁を駆けた。

「今だ!」

 マイアが駆け出す。だが、一体のドローンが空中を跳ね、信じられない角度からマイアを狙う。

「くる……左上!」

 クロの叫びと同時に、マイアは身をひるがえして長剣でそれを受け止めた。火花が散り、剣が激しくもしなる。


「くっ、速すぎて捉えきれない……!」

 そこへ、クロが喉の奥から強烈な干渉波を放った。

「ガガッ……!」

 ドローンが宙で痙攣した一瞬の隙を逃さず、クロが稲妻のような速さで跳躍した。鋭い爪を剥き出しにした腕で、三体を次々と地面へ叩き落とす。


「マイア! あそこの隙間! 光ってるのが多分アイツの弱点だ!」

 ナナイの声に応じ、マイアは地を蹴った。

「そこね……!」

 踏み込みと共に放たれた鋭い刺突が、一体の弱点を貫き粉砕する。ナナイも逆手の短刀でもう一体を沈黙させ、最後の一体はクロが背後の回路を力任せに引き裂いた。


 静寂が戻る。三人は荒い息をつきながら、互いの無事を確認した。

「……信じられない。あんなにチョコマカ動くやつ、初めて見たわ」

 マイアが剣を鞘に納め、額の汗を拭う。

「アタシの短刀がかすりもしないなんてね。……でも、クロのあの一撃がなきゃ危なかった。やるじゃない」

 ナナイが意外そうにクロを見ると、クロは少し誇らしげに鼻を鳴らした。

「……まあ、あんなの、アタシにかかれば当然よ」

 佐藤はそんな三人の健闘を頼もしく思いながら、重厚な隔壁の前に立った。


「これを何とかしないと、先には進めないみたいですね」

 佐藤は光る操作盤タッチパネルに指を触れる。元ドライバーとしての勘を頼りにいくつかのボタンを押すが、そのたびに無機質なブザー音と共に、画面が拒絶を示す赤色に点滅した。

「……ダメか。鍵がかかっているみたいだ」

 佐藤が半ば諦めかけたその時、横から覗き込んでいたクロが、不思議そうにつぶやいた。


「もしかしたら、アタシ……わかるかも」

「クロ、これの使い方がわかるのか?」

「……使い方はわかんない。でも、なんか、ゆらゆらしたのが見えるの。試しにアタシの言った通りにやってみて」

 クロは画面の一角を指差した。

「まずはここ。……次は、その隣の丸いやつ」

 佐藤は半信半疑ながら、クロの指示通りに指を滑らせる。すると、今まで何度やっても赤く点灯していた画面が、吸い込まれるような鮮やかな緑色に変わった。


 ズゥゥゥン。

 地響きと共に、巨大な扉が左右に開き始める。

「やった!」

 小さな歓声が上がった。そして、扉の向こう側に広がっていたのは、彼女たちが一生かかっても見るはずのなかった「神の世界」だった。

 白亜のビル群が空へと伸び、空中を走る透明な回廊を、車輪のない乗り物が静かに行き交っている。見上げる空は、地下の偽物とは違う、吸い込まれるような蒼を湛えていた。


「なに……これ……」

 マイアもナナイも、言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くしている。

 だが、その静謐せいひつな美しさは、すぐに軍靴ぐんかの音によって破られた。


「……動くな。不法侵入者を確認」

 地上へ一歩踏み出した瞬間、建物の影から、分厚い特殊合金の装甲に身を包んだ「重装歩兵」たちが姿を現した。大口径の電磁銃を一斉に構え、一行を完璧に包囲する。


 クロが無言で佐藤の前に一歩踏み出した。小刻みに震える足で、彼女は佐藤を庇うように背を向け、顔だけを振り返って彼を睨み上げた。

「ヒロ、アンタはアタシが守るって決めたんだから、守ってあげる。……そのかわり、助けた後はアンタはアタシの頭を撫でること! わかった!?」

「クロ……」

「アタシのそばから離れちゃダメだからね!」

佐藤は、ポーチの中の結晶体を握りしめた。

「……マイアさん、ナナイさん。まだ、手はあります」

 佐藤の瞳に、不敵な光が宿った。

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