表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『50from17』 〜転生先は超高度文明、黒髪少女と経験値で生き抜く方法〜  作者: 五稜 司


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/43

第31話:残響と予兆

静寂が、以前よりも重く、冷たく空洞に居座っていた。

 先ほどまで死闘を繰り広げていた白銀の騎士は、胸に折れたライフルの銃身を打ち込まれたまま、物言わぬ金属の塊へと成り果てている。

「……はぁ、はぁ……。動かない、わよね? こいつ」

 マイアが、肩で息をしながら、折れたライフルの銃身を握り締めたまま問いかける。その手は、過度の緊張と衝撃で小刻みに震えていた。


「大丈夫……みたい。完全に、火花も消えたよ」

 ナナイが脇腹をさすりながら、ふらりと立ち上がる。

「……サトウ、あんた無事? 最後に狙われてたみたいだけど」

「ええ、なんとか。……それよりクロ、大丈夫か?」

 佐藤は、自分の足元で膝をついているクロに手を貸そうとした。


 先ほどの、空間を震わせるような絶叫。あれは単なる鳴き声ではなかった。クロの体は、まるで高熱を出した後のように熱を帯びている。

「……ほっといて。ちょっと、喉が変なだけだから」

 クロは佐藤の手をねのけるようにして立ち上がった。瞳の白銀色の輝きは消え、元の黄金色に戻っている。


「……あいつ、アンタを殺そうとした。だから、アタシが止めた。感謝しなさいよね」

 強気な口調とは裏腹に、その脚はわずかに震えている。佐藤が心配そうに視線を向けると、彼女は「何よ」と鋭く睨み返し、マイアとの間に割り込むようにして佐藤の服の裾を掴んだ。弱っている姿を見せたくないという、彼女なりの強がりなのだろう。


(……あの時、クロは何をしたんだ? 敵の動きを完全に止めた。まるで、機械の神経を直接焼き切るような……)

 佐藤は思考を巡らせる。元ドライバーの彼に、ナノマシンや電子干渉といった理論は分からない。だが、配送中にラジオの電波が激しく乱れた時のような、あの不快な「歪み」が彼女から放たれたことだけは確信していた。


「……マイアさん、そのライフル……」

 佐藤が声をかけると、マイアはハッとしたように自分の手元を見た。

 自作し、これまで幾多いくた窮地きゅうちを共にしてきた相棒。その心臓部とも言える機関部が、執行者の剣によって無残に叩き折られている。

「……修復は、無理そうね。この場所には予備の部品もないし」

 マイアは寂しげに目を伏せ、折れたライフルをそっと床に置いた。リーダーとしての毅然きぜんとした態度を崩さないように努めているが、唯一の遠距離武器を失った不安が、その横顔に影を落としている。


「……謝らないでください。マイアさんがいなければ、僕たちは今頃この冷たい床に転がされていた。……武器なら、また作りましょう。ここにある資材を使えば、もっといいものが作れるかもしれません」

 佐藤が努めて明るい声で言うと、マイアは驚いたように顔を上げた。

 

「……ヒロ」


 無意識だった。

 よそ者である彼を、これまでは「サトウ」と呼んでいた。だが、共に死線を越え、自分を真っ直ぐに見つめるその男の瞳に、彼女の心の一部が溶かされたのかもしれない。

 マイアはすぐに頬をあかく染め、ぷいと顔を背けた。

「……な、なに笑ってるのよ。ほら、さっさとここを離れるわよ! 騒ぎを聞きつけて、また変なのが来るかもしれないし!」

「そうですね。……クロ、無理はするなよ」

「わかってるわよ。あんたこそ、フラフラしてると置いていくからね!」


 クロは佐藤の裾を離すと、わざとらしく前を歩き出した。だが、時折チラチラと背後の佐藤を振り返り、マイアが彼に近づきすぎていないかを確認するのを忘れない。

 その様子を、少し離れた場所で短刀の手入れをしていたナナイが、口角をわずかに上げて眺めていた。

「……へぇ。お熱いこと。ま、アタシはこいつの『中身』に興味があるけどね」

 ナナイは執行者の装甲の隙間に短刀を差し込み、手際よく何かをえぐり出した。それは、鈍く光る結晶体のようなパーツだった。


「サトウ、これ。あんたなら、何かの材料にできるんじゃない?」

「これは……?」

「わかんない。でも、この塔の『心臓』と似た輝きをしてる。……さっきの騎士の、『心臓』かもね」

 佐藤はナナイから受け取った未知の部品を、腰のポーチに仕舞い込んだ。

 

 一行は、沈黙した執行者を背に、さらに塔の深部へと足を進める。

 マイアは腰の長剣を引き抜き、先頭に立って周囲を警戒する。その背中は頼もしいが、時折、背後にいる佐藤を意識して、歩調がわずかに乱れるのをナナイは見逃さなかった。


 高度な文明。感情を捨てた人形たち。そして、自分たちを「最優先排除対象」と認識したこの塔のシステム。(……俺たちは、ただの不法侵入者じゃなくなったってことか)

 佐藤は、自作のメイスの柄を握り直した。

 50歳の経験と、若き仲間たちの力。それだけが、この冷たい光の檻を突破する唯一の鍵だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ