第29話:白銀の執行者
静寂が、耳を刺すような鋭さで空洞を満たしていた。
青白く脈動する巨大な柱、この階層の心臓部を見下ろす高架橋の上。そこに立つ「純白の甲冑」は、微動だにせずこちらを見下ろしている。
先ほどの警備兵たちとは明らかに一線を画す、圧倒的な威圧感。
「……あれ、ただの人形じゃない。アタシの勘が、最大級のヤバいって言ってる」
ナナイが短刀の柄を握り直し、重心を低く落とした。
「サトウ、私の後ろへ! ……正体は分からないけど、あれを倒さない限り先へは進ませてくれないみたいね」
マイアが鋭い声で指示を飛ばし、自作のパイプライフルを構える。その指先には、かつてない緊張が宿っていた。
白い甲冑が、ゆっくりと右手を横に振った。
ジャリ、と硬質な音が響くと同時に、その手の中に光の粒子が集まり、一振りの細身の剣が形成される。
「不法侵入者を確認。これより排除を開始する」
透き通るような、それでいて感情を一切排除した女性の声。
次の瞬間、白い影が爆発的な加速で橋を蹴った。
「ナナイ、左から牽制! クロ、私の援護を!」
リーダーであるマイアの号令が飛ぶ。
「くる……右! マイア、右だよ!」
クロが叫ぶ。まだ本人も仕組みを理解していない「未来視」の力が、網膜に赤い残像を映し出した。
ガギィィィン!
マイアが咄嗟に振り抜いた長剣と、白銀の剣が激突し、激しい火花が散る。
「くっ……なんて重さなの……!」
力押しではない。一点に凝縮された精密な打撃が、マイアの腕を痺れさせていた。
佐藤は、戦う三人の邪魔にならないよう身を縮めながら、必死に周囲を見渡した。
高度に管理されたこの部屋に、瓦礫など一つも落ちていない。あるのは、規則正しく並んだ精密機器と、壁際に整然と収納された「保守点検用の部材」だけだ。
(……専門的なことは分からないが、あの光る柱は間違いなく「電気」の親玉だ。なら、ドライバー時代に雨の日の現場で見た「アレ」が起きれば……)
佐藤は収納棚から、太い「絶縁被膜の付いたワイヤー」と、重みのある「予備の金属端子」を掴み取った。
「ナナイさん、あいつを柱の近くまで誘導できますか!?」
「えっ!? ……分かった、やってみる!」
ナナイが素早い動きで騎士を翻弄し、その攻撃を誘いながら「心臓」の柱へと引き寄せる。
「――ッ!!」
間髪入れず、クロが喉の奥から高周波の叫びを放つ。
騎士の動きが、目に見えて一瞬だけガクガクと乱れた。AIの指令を一時的に遮断する、クロの未知の力が干渉したのだ。
「今です、マイアさん! 狙ってください!」
佐藤は重り代わりの金属端子をワイヤーに括り付け、柱の根元にある、剥き出しの端子群へと全力で投げつけた。
金属が触れた瞬間、パチパチッ!! と、凄まじい放電が周囲を走る。
佐藤が狙ったのは、高圧電流が金属を伝って無理やり逃げ道を作る「短絡」現象だった。
かつて嵐の中の配送中に見た、切れた電線が垂れ下がり、アスファルトの上で青い火花をまき散らしたあの光景。あの恐ろしいまでのエネルギーを、今は味方につける。
「なっ……!?」
足元の床を伝う予期せぬ過電流が、騎士の電子的な姿勢制御を一時的にマヒさせ、強引に膝をつかせた。
マイアはその隙を見逃さなかった。
「……貫け!」
ライフルの引き金を引き、貴重な弾丸が放たれる。
火薬の爆散音とともに放たれた弾頭は、姿勢を崩した騎士の胸部装甲を、真っ向から捉えた――。




