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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第四章 
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第2話 裏切りの光

 宙に浮かぶサイコロを警戒しつつ見守る一寿。

「ランダムで使える能力が変化するギフトか?」

「ええ。なかなか使いにくい能力ですね」

 一寿は警戒を強くした。ギフトは使いにくければ使いにくいほど強力になる傾向がある。

 六面体のサイコロは回転を止め、上面には五つの点が示された。

「五、ですか。実に好都合。頼むよ、プトレマイオス」

「ぎょぎょぎょ! 見せてやるぜ!」

 水槽の中でナンヨウハギがばたばたと暴れ、水しぶきが舞う。

 それと同時に人魂のような炎が揺らめいた。

 焦ったのは一寿だ。当たり前だが、木は燃える。植物のギフテッドはそう簡単に死なないが一片残らず燃やされば当然死ぬ。このギフトは一寿の相棒、春一にとって天敵かもしれない。

「ギョ! 行けえ!」

 そして炎は飛び、手近にあった植物に火をつけた。

 それを見て一寿は度を失うほどうろたえた。

「お前……何故だ!?」

「何故、と言われても。この戦いを勝ち抜くために裏切っただけですよ」

「そうじゃねえ! 何故攻撃できる!? お前も特害対のメンバーを攻撃できない契約を結んでいるはずだ!」

 春一のギフトは契約。

 当然ながら一寿は契約内容をすべて把握している。これが秩序の維持に有用であったからこそ戦闘力がほとんどなくてもここまで生き残っていたが、その大前提が崩されれば俄然、動揺するのも無理はない。

「ああ、やっぱり気づいてなかったんすね。実はあなたのギフトはトリックスターの性質を持つギフトはあなたの契約を無視できるんですよ。今まで黙っていたのは申し訳ないですけどね」

 サーシャが一歩前に進む。同様に火の玉も一寿に近づく。

 一寿は最後の賭けに出た。

「『オールイン』! ロキ!」

 ロキ。北欧神話のみならず、世界全体を見回しても最高かつ最悪のトリックスターと称される神。

 一寿の予想は当然と言えた。だが。

『ぎゃははは! ざああんねえええん! 不正解!』

 どこからともなく審判であるラプラスの声が聞こえる。

『ペナルティとしてギフトの情報を敵に公開する!』

 ぱらりと、深海のような模様のカードがサーシャの眼前に現れる。

「なるほど。やはりあなたのギフトは……『オールイン』。バルドル」

 バルドルは北欧神話の光の神でヤドリギ以外では殺されない神だが、ロキにヤドリギによって殺害される神でもある。

 それゆえバルドルのギフトはトリックスターを対象にできない。

 焦りのあまり自分のギフトの天敵の名前を口走り……オールインに失敗してしまった。一寿の戦闘経験の少なさがもろに出てしまった形だった。

 そしてオールインの影響でギフトは使えず、さらに一本のヤドリギがその正体を明かすかのように光り輝いていた。

「あれですね。あなたのギフテッドは」

 悠然と歩を進めるサーシャを止める術はなく、もちろん植物である春一に逃げ出す手段はない。

「なるほど。ヤドリギ以外の植物にライトが取り付けられていますね。もしかしてギフトを使うとヤドリギが光るのかな? でもそれを隠すためにライトを取り付けたと……涙ぐましい努力です」

「……」

 一寿は歯軋りの音を隠せなかった。

『ふむ。どうやらここまでのようだね。さらばだ、一寿』

「春一……お前……」

 死期を悟った春一だが、僧侶のように穏やかな口調だった。

『だがサーシャ君。一つ質問をいいかね?』

「なんなりと」

 サーシャとプトレマイオスは余裕の笑みを浮かべている。事実、この状況は明らかな詰み出会った。

『何故このタイミングなのかな。今までもいくらでも機会はあったはずだ』

「簡単ですよ。河登さんを倒す算段が整った。それだけのことです」

「河登を? あいつを倒せるわけねえだろ」

 一寿は誰よりも河登の実力をわかっている。というより、彼と戦闘が成立する相手など存在しないとさえ思っている。

「ですがいずれ倒さなければいけません。いずれにせよ、あなたにはもうかかわりのないことですよ」

 火の玉が春一に近づく。じりじりと、文字通り身を焦がす炎が迫る。

「やめ、」

 もちろん一寿の制止は意味がなく、ヤドリギは炎に包まれた。


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