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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第四章 
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第1話 暗躍

 特別獣害対策委員会の委員長である草野一寿は見た目だけなら小学生男子である。

 しかしながら異能の力、ギフトの代償により見た目だけは若返ってしまっており、その証拠にどかっと椅子に体を預ける姿はいかにもおっさんらしさが漂っている。

 よくある公民館の会議室のような部屋だが、ジャングルなのかと思うほど植物に囲まれた部屋だった。

 事実、むせかえるような緑の匂いにこの部屋は支配されている。

「あー……だる。五月たち、妙な連中に絡まれてたみたいだな……まあ、何とかなったみたいだけどな」

 ペットの忠一が誘拐され、他のギフテッドと争ったという報告を受け取った。どうやらなかなか激しい戦いだったようだが、全員無事に生き残ったらしいと聞いてほっと一息つく。

 そんな時にふと思い出すのはかつて仲間と共に善側のオーナーの一員として戦った日々。

 かなり遅い青春だったのかもしれない。

 うだつの上がらない会社員として暮らしていたところに善の神と悪の神との戦いに巻き込まれ、その能力のおかげでまとめ役のようなものになった。

 ルールを作り、仲間を助け、敵を倒した。

楽しかった。

その時まで会社を辞めて起業する同僚の気持ちがわからなかったが、いまなら少しわかる。新しく何かを作るのは楽しいのだ。

 気の合う仲間となら、なおさら。

 しかし追想はやがて苦い部分へと踏み込んだ。

 急激に増える失踪者。それがもともと味方だったギフテッドの仕業だと知り、誰もが動揺した。それでも団結を維持し、裏切者を討とうとして……返り討ちにあった。

 あの時の絶望は思い出すのも嫌になるが、それでも時折フラッシュバックする。

 あのコピーのギフテッドは自分自身が脅威であるからこそ能力を隠していたのだろう。言い換えれば、まとめ役だった自分が信頼を得ていれば離反はなかったかもしれない。

 記憶を失ったオーナー……命を散らした、あるいは知性を失ったギフテッドから責められる夢を何度も見た。

 消せない後悔は今もなお、草野一寿の心を苛み続けている。

『あまり昔のことばかり思いださない方がいいぞ、一寿。余計に老いる』

 落ち着いた男性の声がどこかから響く。

「うるせえよ、春一」

 自分のギフテッドに対して一寿は憎まれ口をたたいた。植物のギフテッドの中には発声ではなくテレパシーのようなもので会話するものもいる。一寿が春一と名付けた植物こそが彼のギフテッドだったが、その正体を知るものは一寿以外いない。

 この植物に囲まれた部屋も春一がどんな植物なのかわからせない工夫の一つだった。

 こん、こん、こん、と外からノックが聞こえた。

「入ってくれ」

 一寿は鷹揚に客を招いた。

「草野さん。こんにちは!」

「ギョ!」

「サーシャか……相変わらずダイバースーツかよ」

 入ってきたのはサーシャ、本名アレクサンドル・ログノフ。体格に恵まれた快活な好青年……なのだが、暇さえあれば自分のギフテッドたちを世話しており、着替えるのも手間なのでダイバースーツを普段から着用している変人である。今も片手に魚が泳いでいる水槽を抱えている。

 そのギフテッドも癖が強く、語尾などにギョをつける、ナンヨウハギのグループ型のギフテッドである。……まあ語尾については一寿が一枚かんでいるのだが。

「どうやらみんなが他のオーナーと交戦したみたいだけど大丈夫だったかな?」

「ああ。全員無事だとさ。それで、何の用だ?」

「いや、ただ確認に……」

「もう一度言うぞ」

 一寿は今までよりも低いどすのきいた声で詰問する。

「何の用だ。お前はこの部屋に入り浸ってる方だけど、ギフテッドを連れてきたことは一度しかなかったはずだ」

「……」

 サーシャの無言は事実上の肯定だった。部屋の空気が一気に張り詰める。

「んー……あなたに手荒な真似はしたくなかったんだけどね……プトレマイオス」

 サーシャは自分のギフテッドたちにアレキサンダー大王の部下の名前を付けており、見分けがつくのは彼だけだった。

「ギョ!」

 プトレマイオスと呼ばれたナンヨウハギが奇妙な叫びをあげると、突然空中にサイコロが現れた。


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