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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第四章 
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第3話 困惑

 ギフテッドの試練を乗り越えた葵、五月、真子、さつま、アポロ、ククニの三人と三匹は疲労を感じながらも電車の座席に座っていた。

「こういう時はギフテッドがいるのはありがたいわね」

 ギフテッドは本来いるべき場所でなければオーナー以外からは無視される。電車に蛇と犬と猫がいるという状況はそれに該当されるらしく、乗客は誰も気に留めないおかげで三人は並んで座席に座っていた。

 今日は移動し続けていた影響で疲労困憊だったのだ。是が非でも座って疲れを癒したかった。

「ご、ごめんなさい……あ、あたし半分くらい寝てちゃってたみたいで……」

「別にいいわよ、真子。あんたのおかげで勝てた勝負もあるわけだし。そうよね、五月」

 本日の勝負はぎりぎりの戦いの連続で、一歩間違えれば全滅していたかもしれない。それを思えばねぎらいこそすれ苦言を呈するつもりなどなかった。葵としては五月も同じだろうと思っていたのだが、五月はいつも通りの無表情のまま、黙り込んでいた。

「五月? どうしたの?」

「……草野さんと連絡が取れません」

「あのおっさんと? どうしたのよ」

 草野一寿は見た目こそ若いが実年齢は四十を超えている。だから葵は彼をおっさん扱いしていた。

「単純に手が離せないだけならいいですが……最悪の事態もありえます」

「あの人がギフテッドにやられてしまった可能性ですワン?」

 アポロが少し不安そうに尋ねる。

 五月とアポロが草野とは一番長い付き合いだったので心配する気持ちも強かった。

「……じゃ、特害対に直接行くしかないわね」

「いいんですか?」

「良いも悪いも、ないでしょ。緊急事態じゃない」

 草野は特害対の要であり、もしも倒されれば組織そのものが瓦解する。それは同時に、この三人が元の敵同士に戻ることを意味する。

 五月と葵の間にはわずかにぴりりとした空気が漂っていた。




 自然が豊かな公園が併設されている公民館、特害対の本拠地に足を運ぶ。

 見た目だけなら特に変化はないが、どうにも空気がよどんでいる。いつも通りの建物のはずなのにまるで廃墟のような雰囲気がある。

 三人と三匹は無言で顔を見合わせ、扉を開ける。中に特害対のメンバーだが、オーナーではない一般人の職員がいたので葵が話しかける。

「すみません。草野さんはいらっしゃいますか?」

「草野? 草野……ええっと、すみません、こちらにそんなかたはいませんね」

「……そうですか。失礼しました」

 動揺と落胆を隠しつつ、廊下の隅へと向かう。

「ど、どういうことですか? あの人この戦いについては知ってる人でしたよね? なんで草野さんのことを知らないって……」

 シュー、と舌を鳴らしてから蛇のククニが状況を的確にまとめる。

「おそらくですが草野さんのギフテッドが他のギフテッドに倒されたのでしょうな。それで戦いに関する記憶を失った」

 これに五月も補足した。

「草野さんは契約のギフテッドを利用してオーナーでない人の記憶を維持していたようです。それがなくなったことで一斉に多くの人の記憶が失われてしまったのかもしれません」

「……つまり特害対はほぼ機能してないってこと?」

 葵の問いに誰も応えられず、たださつまだけがにゃあ、とのんきな鳴き声を発しただけだった。

「……この状況で何をするべきかははっきりしませんが……少なくとも草野さんに危害を加えた人物を見逃すわけにはいきません」

 これが他所からの攻撃なのか、それとも特害対の誰かの裏切りなのかははっきりしないが草野の仇討ちをしたい気持ちも、尻尾を出してきた相手を叩いておきたい気持ちもあった。

「でも、どうしてこのタイミングなのかしら。多分だけど河登さんにも伝わってるわよね、これ」

 現状最強のオーナーが特害対にいる以上、下手に手を出すのは危険であるはずだった。

 そうして全員がハッとした。

「まさか……河登さんを倒す方法が……見つかったんでしょうか?」

 不吉な呟きはそれそのものが真実になりそうな嫌な予感をもたらした。


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