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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第三章
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第40話 信仰の証

 半ば演技でもう半分は本気で呆れて、見下すような視線と言葉をチャールズに送る。

「あなた、本当にものを知りませんね。よくそれで敬虔な信徒だと言えたものです」

「き、貴様あ! 私を愚弄するのか!?」

「ただの正論でしょう? 知識が信心に直結するとは思いませんけど、努力の証くらいにはなるのでは?」

 その言葉を聞いたチャールズは口を固く閉ざした。




 あの目だ。

 こちらを見つめる葵の目を見て、チャールズは過去の記憶を思い出した。

 こちらを蔑む、それでいて無知を理解していない。そんな視線。

(私だけだ! 私だけが神の教えを理解している! それを理解できない愚か者どもが!)

 チャールズは裕福な家庭に生まれ、両親が救世教の信徒だったこともあり、神父を志すようになった。

 懇意にしていた神父の元に足繁く通い、いつか神学部への推薦をもらえると思っていた。

 だがある日聞いてしまった。

 神父が知人にチャールズをどう思っているかを。

『いや、彼に推薦はださないよ。だって彼、頭が悪いじゃないか。いや、違うかな。勉強する気がないんだろうね。だから神父になんかなれないよ』

(なんという無知! なんという愚か! 真の信仰とは知識ではない! 意志だ! より気高く、純粋な意志こそが信仰の証だ!)

 結局チャールズは神学の道には進まなかった。

 それからほどなくして()()()()()()()()。そう彼は神に選ばれた。少なくともそう思った。




 今まで黙っていたチャールズの口から突然出たのは悪態だった。

「まったくくだらない! 私こそが真に主の教えを理解するもの! 君のたわごとには耳を貸さない!」

「なるほど。では、どのように信仰心があると証明できるんですか?」

「君は知らないのかね? 神を試してはならないのだ」

「たしかに神を試すことは許されていません。では、私の知識を試してはいかがですか? 例えば先ほどまでの私が言っていた山羊についての記述が聖書にあるのかどうか、調べてみてはいかがです?」

「何故だね?」

「コルネリウスが真に邪悪なのか善なるものなのか、はっきりするからです。神を試すのではなく、あなたの(しもべ)を試すのです」

 そう言うとチャールズは表情が読めない葵でさえわかるほど露骨に狼狽え始めた。

「い、いや、そんなことをする必要はない。私は真に忠実なる神の僕だ」

 言い訳を重ねるチャールズはいくら何でも怪しすぎる。まさかとは思ったが……ある質問をしてみた。

「あの……持ってないんじゃないですよね、聖書」

 それは正鵠を射ていたのだろう。

 チャールズは完全に顔をそむけた。

「あれだけ信仰心が篤いとか言いながら聖書すら持ち歩かないとか……どうなんですか?」

「しょ、しょうがないだろう! あれは重いんだから!」

「ポケット聖書ならあなたの信仰心よりは軽いと思いますよ」

 完全に呆れているため言葉の勢いをつけられない。

「わ、私の信仰心が軽いだと!?」

「軽いでしょう? だってほら」

 スマホの画面をチャールズに向ける。

 そのカウントはどんどん上がっていた。

「あなたの代償、動揺したり、嘘ついたりすると制限時間が増える罰則型ですよね。なら、ここで宣言してくださいよ。私は敬虔な神父ですって」

 ようやくここまで来た。

 もうチャールズがまともな神父じゃないことは明らかで、本人もそう思ってしまっているに違いない。

 ここで敬虔な神父じゃないと答えれば嘘はついていないことになるけれど、今までの言葉が嘘だったと証明することになる。そうなると代償の罰則が発動するのか不透明だ。

 さあ、どうすると黙っているとチャールズは言い訳を始めた。

「しょ、しょうがないじゃないか! そんな、救世教がいろいろな神話から着想を得ているなんて知らなかったんだ!」

「……子供でも知っていますよそんなこと」

「私が知らなかったんだ! 知らない人の方が多いにきまってる!」

 なんとまあ、小学生じみた言い訳だ。

 その言い訳を突き破るのも簡単だ。

「あなたは自分が信仰心の篤い人間だと思っているのかもしれませんけど、それは違います。信仰心を試されることから逃げていただけです」

「か、神を試しては……」

「神を試すことなかれ? 私が試しているのはあなたです。あなたはね、たとえどんな歴史があっても、どんな誤解があっても、私は神を信じるそういえばよかったんですよ。それができない時点であなたの信仰心はたいしたことがありません」

 その言葉で彼の心のダムは決壊したのか。

 がくりと膝をつき、制限時間を示すカウントはぐんぐんと増加し、604800という数字で止まった。

 どれくらいの時間なのか想像するのは難しいが、それまでの間逃げ切るのは不可能だということは確信できた。


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