戦いに疲れた村で起こったひとつの出来事
ファンタジーです。
第一章 緑色の竜
その村には、鐘が三つあった。
一つは朝を知らせる鐘。一つは日暮れを知らせる鐘。そしてもう一つは、敵が来たときに鳴らす鐘だった。
十七年にわたる戦争のあいだ、もっともよく鳴ったのは三つ目だった。
ところが戦争が終わって半年が経つと、誰も鐘の音など気にしなくなった。朝の鐘が鳴っても寝坊する者は寝坊し、日暮れの鐘が鳴っても畑にいる者は畑にいた。三つ目の鐘は、鳴らす者さえいなかった。
村人は疲れていた。
戦争に勝ったのか負けたのかさえ、よく知らなかった。王都から来た役人は「我が王国は名誉ある和平を勝ち取った」と言ったが、隣国から帰ってきた行商人は、向こうでもまったく同じことを言っていると笑った。
村人にはどうでもよかった。
畑を耕して麦が実れば、それでよかった。
そんな村に、ある朝、竜が落ちてきた。
最初に見つけたのは、十二歳の羊飼い、ミオだった。
丘の向こうで羊が騒ぐので見に行くと、麦畑の真ん中に大きな穴があいていた。その底で、緑色の竜が身体を丸めていた。
まだ若い竜らしかった。それでも牛五頭ほどの大きさがある。片方の翼から血を流し、角も一本折れていた。
ミオはしばらく竜を眺めてから村へ戻った。
「竜がいるよ」
広場で井戸を修理していた大人たちは、誰も手を止めなかった。
「どこに」
「西の麦畑」
「生きてるか」
「たぶん」
「そうか」
それだけだった。
ミオは驚いた。
「退治しないの?」
鍛冶屋のゴランがようやく顔を上げた。
「誰が?」
「大人が」
「疲れてる」
そう言ってまた井戸の金具を叩き始めた。
昼になると、村人が何人か竜を見物に行った。
竜はまだ穴の底にいた。人間を見ると低く唸ったが、立ち上がる力もないらしい。
「どうする?」
「どうするって」
「竜だぞ」
「竜だな」
「昔なら騎士団を呼んだんだがな」
「呼んだって来るまで三日はかかる」
「そのころには死んでるだろ」
「じゃあ埋めるか」
「まだ生きてるぞ」
話し合いはそこで止まった。
結局、粉屋の老婆が水桶を持ってきた。
「死ぬなら死ぬで、水くらい飲ませてやんな」
誰も反対しなかった。
水桶を穴へ降ろすと、竜は最初こそ警戒したが、やがて長い舌で水を飲み始めた。
それから妙なことになった。
夕方にはパン屋が売れ残ったパンを持ってきた。
「竜ってパン食うのか?」
「知らん」
竜は食べなかった。
肉屋が骨を投げると、それは食べた。
翌朝には子どもたちが竜を見に集まり、その次の日には村の女たちが傷口を洗った。
三日目、竜は立ち上がった。
村人たちは少し身構えた。
竜は翼を広げようとして、痛みに顔を歪め、また座った。
「まだ飛べんな」
「一週間くらいか」
「麦を踏み荒らされるな」
「もう踏み荒らされてるよ」
そんな話をしているところへ、東の見張り台から鐘が鳴った。
カーン。
カーン。
カーン。
村人たちの顔から、表情が消えた。
十七年間、聞き続けた音だった。
三つ目の鐘。
敵襲を告げる鐘だった。
誰も動かなかった。
ただ穴の底にいた竜だけが、ゆっくりと頭を上げた。
第二章 謎めいた旅人
その旅人はふいにやってきた。
彼に最初に気づいたのも、ミオだった。
ミオは彼に近づいていくと、
「ねえ、あなた、旅人なんでしょう? 買ってくれない?」
「買うって何をだ?」
旅人はそっけなく問い返した。彼は、ヤシという名だった。
ヤシは、ミオを探るように上から下まで眺めまわした挙句、軽蔑するように鼻を鳴らした。
ミオは嫌な気持ちになった。
「この村の特産の勾玉よ? お母さんが細工師をしているの」
「腹の足しにもならんな」
「あなた、お腹が空いているの?」
「ああ、空いている。三日間、何も食っていない」
「なら、竜を退治してよ? 竜の肉って、焼くとおいしいんでしょう?」
「どこに竜がいるんだ?」
ヤシは、興味をそそられたようにそう尋ねた。
「村外れの麦畑の真ん中よ?」
「竜の肉は食えない。いや、食ってはいけないんだ」
「それはなぜ?」
「竜人になってしまうからだ。焼くとうまいというのは伝説だ」
「なら、退治するだけでもいいのよ。村のみんなが困っている」
「俺が、そんな勇敢な人間に見えるか?」
「見える」
ヤシは、身長ほどもある大きな剣を携えていた。歴戦の勇者なのかもしれなかった。あるいは戦争で名を挙げた……
戦争がなくなったから、稼ぎ口がなくなってしまったのだろう……ミオはそう思った。
「ならば、まずはたらふく食わせてくれ? この村に食堂はあるか?」
「食堂はないけれど、宿屋だったらあるわ。そこでごちそうしてあげる……でも、勾玉も買ってよ?」
「しつこい娘だな」言って、ヤシは笑った。
宿屋では、鍛冶屋のゴランが昼食のパンを食べていた。ビールも。
(この人は昼間っからよく飲むなあ)ミオは思った。
そして、その隣のテーブルをヤシに勧めた。
「あなた、なんていう名前?」
「ヤシだ」
「変わった名前だわ」
「よく言われる」
「あなたも戦争に行ったの?」
「行った。3千の国を巡った」
「そんなの嘘! この世に3千の国なんてないわ」
「いや、ある。お前の知らない世界にだ」
「あなた、もしかして異邦人?」
「いずれ分かる。竜のもとへ行けば」
「あなたってあいまいなのね。思わせぶりは嫌いよ?」
そうミオが言う間に、ヤシは3皿の大盛りの肉料理をたいらげた。この男は大食漢なんだ、とミオは思う。口だけじゃないと良いけど……
「ところでお前の勾玉な? なんでできてる? 翡翠でできているのか?」
「お母さんは翡翠加工職人よ? 当然勾玉も翡翠製」
「当然、色は緑だな?」
「そう。色は緑よ? よくわかったわね」
「ああ、俺にはわかっていた。ここへ来る前から……」
「おかしなことを言うのね」
「竜のところへ連れていけ。勾玉ももらおう」
ヤシとミオとは、村はずれの麦畑まで歩いていった。
そのころには、村人たちが何人かあつまって、竜の落ちた穴を見つめていた。
唐突に、ヤシが口を切った。
「俺は一週間前、1匹の竜が東へ向かって飛んでいくのをみた。ヨーガの国の国境付近でのことだ」
「それで?」
「俺は竜を追いかけた。その竜は緑色の竜だった。竜は、自分と同じ色の翡翠を目指して飛んでいく。それが、ここだった」
「それで、これからあの竜を退治してくれるの?」ミオは、穴の底を覗き込みながら言う。
「退治はしない」
「約束が違うじゃない!」
「約束など何もしていない。俺はこの竜のところへ連れてきてくれと言っただけだ」
「じゃあ、何をするの?」
「見ていればわかる」
ヤシは一人、竜のいる穴の底へと降りていった。
ふいに頭をもたげた竜が、ヤシを睨む。
その次の瞬間だった。かっと口を開いた竜が、ヤシを一飲みに飲み込んだ! ミオはあっ! となった。
しかし、竜はその次の瞬間、苦しそうに顔をゆがめて、ヤシを吐き出す。竜の涎まみれになっているヤシ。その手には、ミオから買った勾玉が光っている。
ミオも、竜人のうわさは聞いたことがあった。竜は竜人を食べない。その竜人がまさに、ヤシその人だった。
ヤシは、緑の竜の背中にまたがる。竜は今度は大人しくしていた。
「あなた、その竜をどうするの? まさか、飼いならすつもり?!」ミオが大声で叫ぶ。
村人たちは驚いている。「まだ、飛べないんじゃ……」
「いや、飛べる。これから、この竜を竜の王国へと連れていく。俺は、はぐれ竜の回収者だ」
「そして、竜人?」
ヤシはうなずく。
「あなた、竜の肉を食べたのね?」
「戦争を終わらせるためだった。俺ははぐれ竜の回収者となった」
「それがあなたの物語の顛末?」
言う間に、竜は羽ばたきを繰り返す。先ほどとはうって変わっての、回復のしようだった。
「いいか? このことは、この村の外のものには言うな。また竜がやってくる」
「そのときはまたあなたが……」
「俺は、1度訪れた村には2度と来ない」
ヤシは、そう言うと竜を連れて大空へと飛翔した。
その場にいた誰もが、口をあんぐりとあけてその様子を見ていた。もちろん、ミオも。
ヤシは去った。竜とともに。
敵襲は幻だった。いや、実際には国境付近まで進軍してきた敵軍が、竜の存在に恐れをなして引き返したのだ。
竜は村を救った。いや、ヤシがか? それは誰にも分らなかった。
それが、この村に起こったひとつの出来事の顛末だ。
ミオは自宅へ帰ると、「今日竜人に会ったの」と、父と母に告げた。
しかし、父母はミオの話を信じなかった。「大方夢でも見たんだろうさ」
ヤシが竜を連れ去ったことは、その場にいあわせた村人たち以外、誰も知らなかった。
そして、村の外に話が伝わることもなかった。
ミオは、「竜の肉、食べてみたかったな……」ぽつりとつぶやいた。
さて、これはどちらがAIが書いたかわかりますよね。^^




