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星月夜の詩  作者: クマコとアイ


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10/24

まばらな木漏れ日の入る7月のダイニング

今度は真正の純文学です。何も起こらないことを基調にしてみました。

※タイトル変えました。

第一章 4脚の椅子


 家のダイニングには4脚の椅子があった。しかし、家族全員がそろって座ることがない。


 まず、5時半ごろには末娘のほのかが起きてやってくる。ほのかは、朝から学校で部活の練習があるので、家族の誰よりも早く起きてくるのである。


 そして、キッチンで今日のおべんとうを一人で作る。


 お弁当は質素なものがメインだ。前日の夜に食べた煮しめのあまり、卵焼き、冷凍のしゅうまいなど。それを、ほのかは母が起きてくる前に整える。母は専業主婦ではなかったから、朝はぎりぎりまで寝ていたいのだ。


 そして、食パンをトーストして、目玉焼き、野菜サラダとともに食べる。


 おやじキャラではなかったが、誰よりも早く新聞を取ってきて、それを読む。


 ほのかのお気に入りは、スポーツ欄だ。彼女はソフトボールをしていたから、とくに野球の結果は気になった。


 ついで起きてくるのは、わたし。父と母はまだ寝ている。


 わたしは、ほのかが玄関を後にするのとほぼ同じくらいの時間帯に起きてくる。そして、妹となにげない「おはよう」を交わす。


 そして、妹から新聞を受け取って、父用にダイニング・テーブルに置いておく。


 わたしが起きてきたすぐ後には、母が起きてくる。父は一番最後だ。


 母は、起きてくるなり、寝ぼけ眼を必死でこすりながら、わたしに「おはよう」を言う。


 ほのかは、すでにソフトボールの練習に出かけている。


 母は、「ゆうべはどうだった? よく眠れた?」と、言葉をかけてくる。


 わたしはあいまいにうなずきながら、「うん。いつも通りだよ」と答える。


 実際のわたしは、躁うつ病と不眠症を発症していて、夜はまんぞくに眠れたためしがない。


 母はそそくさと台所を片づけると、朝食の準備を始める。


 ほのかが作ったのと同じく、目玉焼きと野菜サラダだ。


 しかし、こちらはドレッシングに凝っている。母は、毎朝手作りのドレッシングを作るのだ。


 母は、朝食を作る手をとめて、ダイニング・チェアに座った。これで、4脚の椅子のうち2脚が埋まる。


 父は、それよりも遅れて起きてくる。SEの父は、徹夜続きだ。家にいないことも多々ある。


 しかし、その日は家にいた。


 寝ぼけ眼をこすりながら、やはり「おはよう」と言って起きてくる。


 母は、モーニング・コーヒーを淹れていた。その香りが、キッチンに漂っている。


「お父さん、昨日はなにかあったの?」


 わたしは毎朝そんなふうに尋ねる。


「ゆかりはそんなこと気にしなくっていいんだよ。父さんのは仕事なんだから」


 その日の父は、いつにも増して疲れたようである。


 わたしは、母からやはりコーヒーをわたされて、すすっている。


 キッチンには、7月の木漏れ日がさしていた。


 庭にはうっそうと木がしげっていて、とくにビワの木ともみじが丈高くなっている。


 わたしは、今日の分の宿題がきちんとできているだろうか、と頭のなかで確認した。


 わたしの通っている学校は進学校ではないけれど、よく宿題が出されれる。義務教育でもないのに、とわたしは不満だ。とくに、古典の科目ではよくレポートを書かされる。昨日なども、「伊勢物語の第〇章の感想を」という宿題だった。


 父は、新聞に目を通し始めた。


 株価が上がっている。物価も上がっている。そんな記事が目についた。


 そのとき、母がコーヒーをこぼした。母はそそっかしいわけではなかったから、これは珍しいことだった。こぼれたコーヒーが、父のワイシャツにかかる。


「あっ!」


「あら。ごめんなさい!」母が謝る。


「洗濯機、洗濯機」わたしも慌てて声を上げる。


「大丈夫だよ、大丈夫。やけどはしなかった。服を取り換えればいいだけだ」


 父は落ち着いているが、やや疲れた顔をしていた。


 父は、ワイシャツよりも新聞が濡れなかったかどうかを気にしているようだった。


 母は、出勤前に余計な仕事を増やしてしまった、と自戒している。


 そして、そうこうするうちにも3人分の朝食を作り終える。


「あのね?」と、わたしは切り出す。


「倫理の授業で、『あなたの家族についてのエッセイを書きなさい』っていう課題が出されているの。こんな朝食の風景のことを書いてもいいかな? 妹は早々に不在になるけれど……」


「好きに書いていいぞ」


「母さんも」


 2人がわたしのほうを見て、うなずいた。


 そして、目玉焼きをつつき始める父。前日は、今携わっているプロジェクトでトラブルがあったのだった。


 母のほうはと言えば、あたらしい服飾デザインの仕事で、しめきりが迫っている。


 妹のほのかは、ソフトボールの大会が迫っていた。


 わたしは、単に宿題に追われる毎日。代り映えしない……


「ねえ、お父さん。今度ダイニング・チェア、買いなおさない? この椅子もずいぶん古くなってきているし……」


 わたしは、その時急に思いついたかのように口にした。


 しかし、実際には違っていた。何週間も前から考えていたことだった。実際、今あるダイニング・チェアはガタが来ていて、動かすとぎいぎいと音がする。


「んあ? それも良いなあ」


 父が、コーヒーから顔を挙げて答えた。母は、「出費が」という顔をしていた。


 もう、父は新聞を半分ほど読んでいる。


 なにげない朝だった。



第二章 5脚目の椅子


 その日の夕方、わたしが学校から帰ってくると、ダイニングには誰もいなかった。


 当然だった。


 父は仕事。母も仕事。ほのかは部活。


 わたしだけが、午後四時半という中途半端な時間に家へ帰ってきた。


「ただいま」


 誰もいない家に言う。


 返事はない。


 わたしは制服のままダイニングの椅子に座った。


 ぎい。


 椅子が鳴った。


 朝、お父さんに言ったことを思い出した。


 ――今度ダイニング・チェア、買いなおさない?


 べつに、壊れそうだから言ったわけではない。


 確かに古い。わたしが小学生のころには、もうこの椅子だった。


 でも、座れないほどではない。


 わたしは立ち上がり、四脚の椅子を眺めた。


 父の椅子。


 母の椅子。


 ほのかの椅子。


 わたしの椅子。


 決まっているわけではない。


 でも、いつの間にか決まっていた。


 ほのかは庭に近い席。


 父は新聞を広げやすい端の席。


 母は台所へ行きやすい席。


 そして、わたしはその残り。


「なんだかな」


 口に出してみた。


 ぎい。


 もう一度、椅子が鳴った。


 わたしは二階へ上がった。


 宿題をしなくてはいけない。


 倫理の課題。


『あなたの家族についてのエッセイを書きなさい』


 原稿用紙二枚。


 たった二枚なのに、書けなかった。


『わたしの家族は四人家族です。父と母と妹がいます』


 そこまで書いて、消した。


 小学生みたいだった。


 午後六時過ぎ。


 最初に帰ってきたのは、ほのかだった。


「ただいまー」


「おかえり」


「お腹すいた」


「お母さん、まだだよ」


「知ってる」


 ほのかは冷蔵庫を開けた。


「プリン食べていい?」


「自分で買ったやつ?」


「うん」


「じゃあいいんじゃない?」


「お姉ちゃんに許可もらうことじゃなかった」


「だったら聞くな」


 ほのかはプリンを持って、ダイニングに座った。


 朝とは違う椅子だった。


「あれ?」


「何?」


「そこ、ほのかの席じゃないじゃん」


「席なんて決まってないでしょ」


「そうだけど」


 ほのかはプリンを食べている。


「ねえ。なんでそこに座ったの?」


「なんとなく」


「ふうん」


「何?」


「なんでもない」


 ほのかは、今度はわたしを怪訝そうに見た。


「お姉ちゃん、今日変だよ」


「いつも変だよ」


「それもそうか」


「納得するな」


 七時近くになって母が帰ってきた。


 スーパーの袋を二つ抱えていた。


「ごめん。遅くなった」


「今日、何?」


「冷やし中華」


 七月の夕食としては、ありふれている。


 母は錦糸卵を作り、キュウリを細く切った。ハムも細く切った。トマトだけは大きかった。


「トマト、大きくない?」


「面倒になった」


 母は言った。


「お母さんにも面倒になることあるんだ」


「毎日あるわよ」


 知らなかった。


 八時になっても、父は帰ってこなかった。


 母が電話をした。


「うん。うん。分かった。無理しないでね」


 電話を切る。


「お父さん、今日帰れないって」


「また?」


「トラブルがまだ片づかないみたい」


 四脚のうち三脚が埋まった。


 父の椅子だけが空いている。


「いただきます」


 三人で冷やし中華を食べた。


 ほのかは練習の話をした。


「今日ね、監督に褒められた」


「何を?」


「バント」


「地味ね」


「バントを馬鹿にするな」


 母が笑った。


 わたしも笑った。


 父の椅子だけが空いていた。


 食事を終えて、ほのかは風呂に入った。


 母は洗濯物をたたみ始めた。


 わたしはまだダイニングにいた。


「宿題?」


「うん」


「何の?」


「まだ言っていなかったっけ? 家族について書くエッセイ」


「ああ、そうだったわね」


「書けない」


「どうして?」


「普通すぎるから」


 母は、たたんでいた父のシャツを一度膝の上に置いた。


「普通じゃ駄目なの?」


「エッセイだよ? 何か書くことがないと」


「お父さんは徹夜。私は締め切り。ほのかは大会。ゆかりは不眠症」


「最後だけ暗くない?」


「事実でしょう?」


「まあね」


 母はまた洗濯物をたたみ始めた。


 しばらく、何も話さなかった。


 テレビもついていなかった。


 庭では虫が鳴いていた。


「ねえ、お母さん」


「ん?」


「この椅子、いつ買ったの?」


「椅子?」


「これ」


「ああ」


 母は少し考えた。


「ほのかが生まれる前かな」


「じゃあ、最初は三脚だった?」


「ううん。五脚」


「え?」


 わたしは母を見た。


「五脚買ったのよ」


「なんで?」


「お父さんが、お客さんが来たときに必要だって」


「一脚どうしたの?」


「壊れた」


「いつ?」


「ずっと前」


 母はなんでもないことのように答えた。


「ゆかりが小学生のころ。座面が割れたから捨てたの」


「覚えてない」


「そんなものよ」


「誰の椅子だったの?」


「誰のでもないわよ」


 母は笑った。


「お客さん用だったんだから」


 わたしは四脚の椅子を見た。


 父。


 母。


 ほのか。


 わたし。


 そして、誰のでもない一脚。


「じゃあ、今度買い替えるとき、五脚買わない?」


「なんで?」


「なんとなく」


「置く場所ないわよ」


「昔は置いてたんでしょう?」


「昔はね」


 母は少しだけ考えてから言った。


「まあ、お父さんに聞いてみれば?」


「うん」


 翌朝。


 五時半に、ほのかが起きてきた。


 わたしは眠れなかったので、もうダイニングにいた。


「おはよう」


「おはよう。早いね」


「寝てないだけ」


「また?」


「うん」


 ほのかは冷蔵庫を開けた。


 お弁当を作り始める。


 わたしはその様子を眺めながら、倫理の宿題を書いた。


『わたしの家のダイニングには、四脚の椅子があります。家族も四人です。でも、四人が一緒に座ることはほとんどありません』


 そこまで書いた。


「何書いてるの?」


「宿題」


「見せて」


「やだ」


「ケチ」


 ほのかは卵焼きを作っている。


 わたしは続きを書いた。


『昔は五脚あったそうです。一脚は、誰の椅子でもなかったそうです』


 そこで手が止まった。


 窓から朝の光が入っていた。


 庭のビワともみじの葉が揺れるたび、まばらな木漏れ日がテーブルの上を動いた。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 四つ。


 椅子の背もたれに光が当たった。


 そして、椅子のない床にも、同じように木漏れ日が落ちていた。


「ねえ、ほのか」


「何?」


「五人家族だったら、どうだったと思う?」


「何が?」


「うち」


 ほのかは卵焼きをひっくり返した。


「知らない」


「だよね」


「でも」


「うん?」


「お弁当、一個余計に作らなきゃいけないから面倒」


 わたしは笑った。


「そこ?」


「重要だよ」


 ほのかも笑った。


 わたしは原稿用紙に向き直った。


 そして、最後にこう書いた。


『わたしの家族は四人です。だから、今度椅子を買い替えるときには、五脚買ってもらおうと思っています。誰のものでもない椅子が一脚くらいある家族のほうが、わたしには少しだけ広く思えるからです』


 読み返してみた。


 よく分からない文章だった。


 倫理の先生に意味が伝わるかどうかも分からない。


 でも、消さなかった。


 ほのかが玄関へ向かった。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 一脚が空いた。


 もうすぐ母が起きてくる。


 そのあと、父も帰ってくるかもしれない。


 それでも、四脚の椅子が全部埋まることは、たぶん今日もない。


 庭の葉が揺れた。


 椅子のないところへ、朝の木漏れ日が落ちていた。


 わたしはそれを見ながら、冷めたコーヒーを飲んだ。


 やはり、なにげない朝だった。

今度はどちらがAIでしょうか? これはすぐにわかりそうですよね。

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― 新着の感想 ―
いやー、どっちがどっちか全然私分からないのですが……。 何気ない日常をどちらも書いていて、でもそこが良い作品です。 前半がkumako様で後半がAIさんでしょうか? しかし、判断基準も何も良く分かっ…
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