表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死んだ世界は、土から蘇る  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/11

第10話 村の宝は金になる

 冬の終わり。


 村では甘酒、焼き菓子、甘酒ヨーグルトがすっかり定番になっていた。


 朝になれば甘酒の香りが広場に漂う。


 子供たちは焼き菓子を頬張りながら走り回り、牛舎では牛たちが穏やかに草を食んでいる。


 ミアはその光景を眺めながら笑った。


「最近、病気の子が減ったね」


 ガルドも目を細める。


「顔色がまるで違う」


「村が変わったな」


 穣は黙って広場を見渡していた。


 まだ終わりではない。


 循環は、ここから外へ広がっていく。


     ◆


 その日、一台の荷馬車が村へ入ってきた。


 御者台には一人の男。


 日に焼けた顔。


 鋭い目。


 旅商人・ジンだった。


「……おかしいな」


 地図を見直す。


「ここは貧しい村のはずだ」


 だが目の前にある景色は違う。


 煙突から煙が立ち上る。


 子供たちは笑いながら走り回っている。


 牛は丸々と太り、畑も荒れていない。


 ジンは首をかしげた。


「別の村に来たか?」


     ◆


 広場を歩いていると、一人の子供が焼き菓子を食べていた。


「それは何だ?」


 子供は笑って差し出す。


「食べる?」


 ジンは一口かじった。


 サクッ。


 香ばしい香り。


 そして、ほのかな甘み。


「……美味い」


 思わず呟く。


「砂糖は?」


 ミアが笑う。


「使ってないよ」


「嘘だろ」


「本当」


 ジンはもう一口食べた。


「信じられん……」


     ◆


 今度は白い器を渡された。


「これも食べてみて」


 甘酒ヨーグルトだった。


 恐る恐る口へ運ぶ。


 酸味。


 甘味。


 滑らかな舌触り。


 思わず目を見開く。


「これも村で?」


 穣が頷く。


「ああ」


「こんな物を作れる職人がいるのか?」


「菌が作った」


 ジンは少し黙った。


「……なるほど」


「この村には変わった職人がいるらしい」


 ミアが笑いをこらえていた。


     ◆


 ジンは村を一周した。


 高床式倉庫。


 乾燥棚。


 堆肥場。


 牛舎。


 鶏小屋。


 きれいな水路。


 整えられた畑。


 一つひとつ見て回るたび、驚きが増していく。


「偶然じゃない」


「全部考えて作られている」


 穣が答える。


「全部繋がっているからだ」


「水が土を育てる」


「土が草を育てる」


「草が牛を育てる」


「牛が畑を育てる」


「畑が人を育てる」


 ジンは静かに笑った。


「だから農業か」


     ◆


 広場へ戻る。


 ジンは焼き菓子をもう一枚手に取った。


「これは売れる」


 村人たちが顔を見合わせる。


「売れる?」


「こんなのがお金になるのか?」


 穣は迷わず答えた。


「なる」


 ジンも頷く。


「町なら何倍もの値が付く」


「甘い物は珍しい」


「保存も利く」


「旅人も貴族も欲しがる」


 村中がざわついた。


     ◆


 トーマが呆然としていた。


「俺たちは今まで畑で作ることしか考えてなかった」


 穣は静かに言う。


「育てるだけでは半分だ」


「加工する」


「価値を付ける」


「売る」


「そこまでやって初めて農業になる」


 トーマは焼き菓子を見つめる。


「畑って……そんなことまで出来るのか」


     ◆


 ガルドもゆっくり口を開いた。


「昔は税を納めるためだけに麦を育てていた」


「余れば終わりだった」


 穣は首を振る。


「違う」


「食べる」


「残す」


「加工する」


「売る」


「全部農業だ」


 ガルドは静かに笑った。


「わしは長く農民をやってきた」


「だが、まだ農業を知らなかったらしい」


     ◆


 ジンは荷馬車へ次々と荷物を積み込んでいく。


 焼き菓子。


 甘酒。


 甘酒ヨーグルトは日持ちしないため持ち帰れなかったが、何度も味を確かめていた。


「また来る」


「もっと作っておいてくれ」


 ミアが驚く。


「本当に全部買うの?」


「全部だ」


「町ならすぐ売り切れる」


 村人たちは顔を見合わせ、歓声を上げた。


 初めて、自分たちの作った物がお金になる。


 それを実感した瞬間だった。


     ◆


 荷馬車はゆっくり村を後にする。


 ジンは振り返り、大きく手を振った。


「こんな村は初めて見た!」


「次はもっと面白い物を期待してるぞ!」


 馬車は街道の向こうへ消えていく。


     ◆


 夕暮れ。


 穣は一人、川辺を歩いていた。


 風に揺れる細長い草。


 その穂を手に取る。


 指先で籾を揉む。


 穣の目が静かに見開かれた。


「……あった」


 前世で何度も見た植物。


 忘れるはずがない。


 野生の稲だった。


 穣は小さく笑う。


「次は、お前の番だ」


 春風が草原を駆け抜け、黄金色の穂が静かに揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ