3 二日目
利菜からの返信はなかった。
豊後富士、新谷照也は、筆まめではない。でもこれまでの人生で、女の子にメールを送って、返信がなかったということはなかった。
豊後富士は、あらためて利菜のことを考えてみた。
三回か四回会って、三ヶ月ほど前に自分がふった女の子。
ふる切っ掛けになったのは。
利菜が「結婚」という言葉を口にしたから
その利菜は、いずれ、大関、荒岩と結婚するという。
たしかまだ高校生だったよな。随分、結婚願望が強いんだな。
この若さで結婚か。たまらないよな。
俺は、そう、二十代の間は、数多くの女の子と目一杯遊ぶ。
その中でこの子ならいいな、という女の子が現れたら、その時、結婚すればいい。
照也は、そう思っていた。思っていたはずだった。
利菜が、荒岩のお嫁さんになるという。
ということは・・・・・・
いや、俺との時のことを考えても、婚約者というのだったら、既に荒岩とは・・・・・・
いやだ。照也は、思った。
二日目の取組結果
曽木の滝 ( 2勝 ) 寄り切り ( 2敗 ) 神ノ山
緋縅 ( 2勝 ) 押し出し ( 2敗 ) 神天剛
早蕨 3 ( 2勝 ) 引き落とし ( 2敗 ) 0 豊後富士
荒岩 ( 2勝 ) 寄り切り ( 2敗 ) 神天勝
若吹雪 ( 2勝 ) 突き落とし ( 2敗 ) 竹ノ花
玉武蔵 ( 2勝 ) 突き出し ( 2敗 ) 大乃洋
伯耆富士 ( 2勝 ) 送り出し ( 2敗 ) 松ノ花
利菜さん、返事くれなかったね。がっかりしちゃった。
そのせいかな、今日も負けました。
利菜さん、正直に書きます。
ネットで、荒岩関と一緒に写っている君の写真を見て、荒岩関と婚約している、という記事を読んだときから、君のことばかり考えてます。
利菜さん、僕は、君のことが大好き、みたいです。
女の子に対して、こんな気持ちになったのは初めてです。
僕は、たくさんの女の子と遊んできました。これからも、まだまだそうするつもりでした。
だから、利菜さんに、お嫁さんに、と言われて、僕は、逃げてしまいました。
今になって、自分の気持ちに気付くなんて。
利菜さん、・・・・・・やっぱり書こう。
君が、僕との間であったようなことを、荒岩関ともしているのかと思うと、僕の胸は張り裂けそうです。
利菜さん、もう遅いかな。
もう一度、僕のことを好きになって、というのは、むしがよすぎますか。
僕は、君を誰にも渡したくないです。
うん、むしがよすぎる。
利菜は、思った。
この人はいったい何なんだろう。
私が、あっさり捨てられてしまって、どんなに苦しんだか、分かっているのだろうか。
私のことが好き?
何で、今になって、そんなことを言うの。
敏昭さんとは、まだ何もないです。
敏昭さんは、一度、結婚するまで我慢します、冗談混じりに、そう言っていました。
敏昭さんは、照くんと私の間に何があったのか、分かっているでしょう。
でも敏昭さんは、そのことについては、何も言わない。
敏昭さんは、あなたとは違う。いい人、凄くいい人。穏やかで優しくて。
私のことをとても大切にしてくれて。
敏昭さんとは、まだ何もないです。
・・・・・・そのこと、私は、誰に一番、知ってもらいたいのだろう。




