↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/300

第274話 北の峠の柱

北の峠の柱は、俺の背丈の4倍あった。


石ではない。石なら叩(たた)けば欠ける。これは叩くと、掌(てのひら)の方が痺れる。触った感じは、冷えた鉄に近い。だが鉄なら、この高さで自分の重さに負けて傾いとる。そうなっておらんということは、上から吊るされとるということだ。


その先は、見えん。



「ザルカ殿。馬が、あと3頭死にます」


そう言ったのは、ドレクだ。


左の頬に古い切り傷のある男で、去年まで我が君の首を狙っとった。312人の頭だ。ヴェルナ殿が拾わんと言い切った相手でもある。俺は、拾う拾わんの話は知らん。峠に来た者は、来た者として使う。


「登る前に言え、そういうことは」


「登る前は、2頭と伺っておりました」


「増えとるじゃないか」


「風が変わりました」



俺は、峠の下を見た。


1400のうち、ここに来とるのは400だ。残りは南と、村の守りに、俺が割った。21年、俺は割る側にいたことがない。


ドレクの312は、いちばん風の当たる列に置いてある。


「ドレク。お前の列、風上だぞ」


「存じております」


「動かすか」


「動かしません。……数えていただく約束です。風下では、減りません」



俺は、腹の底が冷えた。


この男は、減る前提で列を選んどる。減らずに済む場所へ置いてくれと言わん。減った数を書いてくれと言う。21年、俺が上の者に言われてきたのは、その逆だった。



柱の根元に、穴(あな)が7つ空いとる。


穴は、指が3本入る大きさだ。中を覗(のぞ)くと、暗いのに、底が見える。そこに、細い線が1本走っとる。線は、峠の上の方へ伸びて、空の手前で消えとった。


グランの倅のラントが、その穴に耳を当てた。


「ザルカ様。鳴っています」


「何が鳴っとる」


「数です。……1つ、2つと数える声が、中で」


「誰が数えとる」


「分かりません。声が、若いです」



俺は、自分の板を出した。


石で線を引く板だ。我が君に教わった引き方ではなく、俺が自分で考えた引き方をしてある。峠は冬に雪で埋まる。だから、1400のうち、700を南へ回して、300を村に残す割り方にしてある。


板を、柱の穴に押し当てた。


思いつきだ。中で誰かが数えとるなら、こっちの数を見せてやればいい。理屈は無い。21年、俺は理屈のある命令しか受けたことがなかったので、理屈の無いことを自分でやるのは初めてだった。


穴の中の声が、止まった。



それから、板が熱くなった。


熱くなったというより、吸われた。石で引いた線が、板の表から消えて、穴の中の線に繋がった。その先が、光った。


「ザルカ殿。柱が」


「傾いとる」



4倍の背丈の柱が、峠の風下へ、ゆっくり傾いた。


倒れはせん。傾いたまま、止まった。その分だけ、空が下りてきた。峠の上の綴じ目が、指の幅ほど緩んだ。そこから、灰色の風が吹き下ろしてきた。


風は、冷たくなかった。



「ドレク。減ったか」


「まだです」


「見とけ」


「見ております。……ザルカ殿、あの板は」


「割れた」


俺は、真ん中から割れた板を、懐へ入れて、次の柱の方角を見た。南の谷だ。グランが行っとる。あの男は地図が読めんので、11の娘を連れて行った。


読めん者が、読める者を連れて行く。21年前の俺なら、恥だと言うとった。



「馬を1頭、南へ出せ」


「伝言は」


「こっちは傾いた。そっちも傾けろ。……それだけでいい」


「行き先は、書かなくてよろしいので?」


「書かん。書かんのが、今度のやり方だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。