↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/300

第263話 道を作れ。俺は通る

工房の外に、翼が並び始めたのは、夕方だった。


天界に、夕方は無い。明かりが弱くならない。それでも夕方だと分かった。セイルが灯りを1つ灯(とも)した。21年、この男は同じ刻限にそれを灯してきた。その手が、外の音で止まった。



「……来たな」


「何人だ」


「数えていない。……ザリエル様は、来ない」


「来ねえのか?」


「来ない。あの方は、決めたら、あとは人にやらせる」


俺は、窓の無い壁に手を当てた。


掌で、外の重さを測った。翼は軽い。そういうものが床の上に並ぶと、床が別の鳴り方をする。その鳴り方で、だいたいの数が分かる。60以上だ。


「セイル。縫うのに、どれだけかかる」


「準備に、丸1日」


「その間、ここは保つか」


「保たない。……この部屋は、ザリエル様が私に与えたものだ」


「じゃあ、外から閉められるな」


「閉められる」


俺は、テオを見た。


17の少年が、いちばん低い机の横に座っている。両手を膝の上に置いて、さっきから動かさない。震えを止めようとしている。


「テオ」


「……はい」


「穴、開けられるか」


「1尺なら」


「どこへ開けられる」


「行ったことのある場所です。……ラセルと、ローデン砦と、あとは」


少年が、そこで、言い淀(よど)んだ。


3つ目は、自信の無い場所だ。それでも、口に出そうとしている。


「あとは、麦の村です。……去年、リディア様に連れていってもらいました」


俺は、初めて椅子を探した。


この工房には、椅子が1つも無い。いちばん高い机に肘をついて、紙を出せと言った。セイルが、紙を3枚出した。



俺は、字を書いた。


3年前、人間界で覚えた字だ。書くのは、下手だ。ミトの方が、たぶん上手い。それでも、読める形にはなる。3枚とも、同じことを書いた。


——道を作れ。俺は通る。



「これだけですか」


テオが、覗き込んで言った。


「これだけだ」


「……どこへ、とは書かないのですか?」


「書いたら、そこに来る。……道は、あいつらが決めた方が早い」


少年は、3枚を並べて、掌(てのひら)を上に向けた。


その上に、陣が出た。1枚。2枚。3枚目で、指が痙攣(けいれん)した。それでも、3枚目を組み切った。穴が、1尺開いた。



向こう側が、暗い。


人間界のローデン砦は、いま夜だ。開いた穴の縁に、テオが紙を1枚差し入れた。手が、肘まで入った。その先で、誰かが紙を受け取った。


「……取られました」


「誰にだ」


「分かりません。手が、冷たかったです」


手が冷たいのは、リィナの家系の話ではない。人間界の砦で、夜に見張りに立つ者の手は、みな冷たい。3年前、俺の手も冷たかった。2枚目は、麦の村へ入った。



3枚目を差し入れるとき、テオの膝が落ちた。


リディアが横から支えて、自分の右手を、少年の手の上に重ねた。その手の小指が、無い。無い分、掌が少年の掌に平たく当たった。


「テオ。1尺のまま、崩さないで」


「……はい」


「あんたが開けたものだ。わたしのじゃない」


3枚目は、魔界の、ラセルの近くの穴へ入った。


向こうで、何かが引っ張り返してきた。子供の手だ。小さい。テオが、その手を一度握って、離してから、穴を閉じた。



外の音が、そこで変わった。


並んでいた翼が、動き始めた。揃っている。押し込む前の形だ。押し込む者は、先に一度、下がる。その分だけ、壁が軽くなった。


「ゼノ様」


リィナが、剣を抜いた。


「1日、保たせればよろしいのですね」


「丸1日だ」


「……長いですね」


「長え」


俺は、そう答えてから、掌を開いた。


6枚だ。脇腹が、まだ下へ引いている。下からの引きは、戦っている間じゅう続く。なら、計算に入れておけばいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。