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第198話 あと173

火が2つに減った頃、俺は石垣を離れた。


少し歩いた先に、白いものが3つ立っている。村に降りてきて、階を消された3体だ。読む本は、リィナが村で抱えている。持たないまま、この連中は3日、火の外側に立っていた。


逃げもしない。座りもしない。


「おい」


真ん中の1つが、こちらを向いた。


人の向き方ではなかった。首から上だけが回る。その顔の、目の位置に窪みがあるだけで、目は無い。


「あんたら、上に戻れねえのか」


「戻れません。階が、ございませんので」


「じゃあ、何を待ってる」


「待っておりません。いまは、あなたの数でございます」


掌の頁を開いた。9番目の欄だ。上から2行目にリィナ。その下に202。この3つは、そこに書いていない。それでも、この連中は自分から俺の数だと言う。


「東の領で、3日に31人が止まった。誰が読んでる」


白いものは、答えるまでに間を置いた。


覚えていないのではない。口に出す順番を探す間だ。上の連中は、みんな同じところで止まる。


「8番目でございます」


「8番が、なんで東の領を読む」


「上が、閉じましたので」



俺は、その言い方の意味を、すぐには取れなかった。


上を閉じたのは、俺だ。欄ごと落とした。9つ目が下へ行って、上は8つになった。8つで閉じれば、外のものは数えない。あの1番は、そう言って俺に落とし方を教えた。


閉じた側に、都合のいい話だったはずだ。


「閉じたなら、終わりだろう?」


「閉じた帳は、閉じた日の数で、釣(つ)り合わねばなりません」


「……釣り合う」


「はい。9番目の欄が下りましたときに、上の数から、204が抜けました。抜けた分は、どこかで埋めます」


俺は、頁を持つ指に、力が入るのが分かった。


204。俺と、リィナと、202だ。俺が上で書き足した数が、そのまま、上に開いた穴になっている。


「埋めるってのは、新しく数えるってことか」


「左様でございます」


「どこからでもいいのか?」


「閉じた帳の内側であれば、どこでも」


俺は、その内側の広さを訊いた。


「人間界と、その後ろに綴じた魔界でございます。……同じ帳でございます」



俺は、東の空を見た。


暗い。何も見えない。その向こうに、1万1000がいる。ネフィスが冬を越させようとしている村だ。3日で31人。この進み方なら、204になるまで、20日はかからない。


「なんで東なんだ。人間界の方が、近えだろう」


「人間界の頁は、いま、読めません」


「なんでだ?」


「あなたの手の下にございます。……9番目の座が下りましたとき、村の頁も、下へ落ちました」



俺は、腹の底が冷えた。


村の頁を守った。その結果、上は読めるところを探して、魔界へ回った。俺が人間界を閉じて、ネフィスの村の年寄りが首に線を引かれている。


こういう払わせ方を、俺は知っている。18年前に、この連中から1度やられた。


「止め方は」


「204を、お返しになることでございます」



「返したら、どうなる」


「欄が空になりますので、中の名は、元の頁へ戻ります」


「戻った202は」


「3年前に数え終えております。戻りましたら、線はもう2本ございます。そのまま片付きます」


俺は、火の方を見た。


火の周りで、ラントが誰かの名を呼んでいる。順に呼んで、行き先を訊いている。3年かけて覚えた順だ。呼ばれた者が、1人ずつ手を挙げる。その中に、子供の手が3つ混ざっていた。


あれを返せと言っている。


「断る」


「では、東が埋まります」


「それも断る」


「両方は、ございません」



癇(かん)に障った。18年前も、同じ形で言われた。あのときは選ぶものが無かったから、黙って落ちた。


いまは、両方とも俺の手の中にある。


「両方は、無えのか」


「ございません」


「なら、作る」



白いものは、そこで、初めて何も返さなかった。


窪みだけを、こちらへ向けている。この連中は、覚えたものしか口に出せない。覚えていないことを言われると、止まる。


俺は、掌を開いた。


6枚が乗っている。極級だ。この級に届いた者は、魔界に4人しかいない。


その6枚の上に、もう1枚置けるかどうかは、試したことがない。


「9番目の欄の広さは、何で決まった」


白いものが、窪みを頁の方へ向けた。


「就かれた方の、器でございます」


「器が増えたら、欄も増えるか」


「……前例が、ございません」



俺は、そこで笑った。


この連中が、初めて「無い」ではなく「前例が無い」と言った。


俺は、頁を折って、懐(ふところ)に入れた。


それから、火の方へ歩きながら、東までの日数を数えた。ヴェルナが200を運ぶのに6日と言った。俺なら、穴を引き出せば半日だ。


半日で、31が幾つに増えているか。


数は、あと173だ。

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