姿なき声(Side カイ)
本当に久しぶりなんだから食事でも、というアンナの申し出を辞し、急ぎ王宮へ馬で駆けたカイは、自身の戸籍を調べようと思い立つ。しかし即座にその考えを打ち消す。きっと何某かの名前の両親のもとに届出がなされ、親元を訪ねたとしても徒労に終わるだろう。
隠されているのだ、何かを。
王宮内の使用人塔の自室に戻ったカイは何か手がかりはないかと部屋中をうろうろとする。アンナに会いに行ったきっかけは魔法陣だった。魔法などという非現実的なものに縋るしかないのではないか。
紙切れに書かれた魔法陣を取り出し、ナイフで指の腹を切る。血が魔法陣に落ちるが何も起こらない。
「はっ」
乾いた笑いが漏れる。何も起こらないじゃないか。魔法なんて存在しない。きっと書庫での出来事は白昼夢か何かだったのだ。
「何がおかしいの?」
全身が総毛立ち、振り向きざまに剣を振り下ろす。
「何者だ!」
剣は何もない空気を切っただけで、空振った剣が床に微かに傷を作る。即座に体勢を低く取り、足元を掬われないように備える。認識不明の事態が起こったらまずは動かず状況把握が鉄則だ。
「ふぅん、落ち着いているねぇ。」
自室に何かがいる。幽霊などの類を信じはしないし、感じる力もないはずだ。自分は遂に気でも触れてしまったのか。
「大丈夫、君はまともだよ。」
ケラケラと笑いながら見えない声が思考を読んだかのようなことを言う。腰を低くしたまま剣を持ち、唸るように問いかける。
「何者だ、姿を見せろ!」
「教えてもいいけど、まずはそっちが名乗ったらどう?君が僕を呼び出したんだしぃ。」
いちいち間延びした話し方が癇に障る。しかし姿なき声はカイと会話する意志があるらしい。この機会を無駄にするわけにはいかないと判断し、剣を鞘に納め攻撃の意思がないことを表明する。
「冷静だねぇ。」
冷やかすような声がするが無視して名乗りをあげる。
「カイと言う。この国の第一王子に仕える第一従者だ。」




