再会(Side カイ)
アンナに会う、と決めたカイの行動は早かった。雨降らしの儀はあと二日で終わる。カイが自由にできる時間は残り二日だ。王宮外に出られる時間があるうちにできることは済ませておきたい。
第一従者権限で、外出届を自己処理したカイは馬に跨り、久方ぶりに城下へ降り立った。かつての住処が無事で、アンナも存命であることを祈りながら馬を走らせること半刻。
「はいはい、どちら様?」
戸を叩いた返事に返って来た声は記憶のものよりずいぶんか細い。果たしてアンナは元気そうであった。
「あなた...、カイ、なの...?」
今にも泣き出しそうなアンナの様子に驚き、近所の耳目を集めてはまずいと判断したカイは玄関先に体を滑り込ませる。戸を閉めたところで一息つく。
「...お久しぶりです。」
勢いでアンナに会うことを決め、決行したものの何を話し出したら良いか分からず、当たり障りのない言葉しか出てこない。
「聞きたいことがあります。」
普段なら貴族相手には機知に富み、アイロニックな会話もできるが、久しぶりに会う育ての親の前だと上手く言葉が紡げず、直球な物言いになってしまう。
およそ十年ぶりに顔を合わせた子が急に家を訪ねて来た上に、話があるというのを察したアンナはさすが年長者といったところか。カイを部屋へ案内し、茶を用意してくると言い、台所へと行ってしまった。
「あまり変わってないな。」
盆に茶と菓子を持ってきたアンナはそれを聞き、ふふ、と微笑んだ。事情はなんであれ、再び生きて相見えたのだ。嬉しくないわけがない。何せ、望んでカイを手放したわけではないのだから。
「それで、急にどうしたの?」
水を向けられたカイは、再会の挨拶もそこそこに、自身の出自について知っていることを聞かせて欲しいと切り出した。
カイの言葉に微かに強張ったアンナの表情に、これは何かあると直感する。
「何も知らないわ。私は産婆としてあなたを取り上げただけ。」
即座に返された言葉に、はいそうですか、と頷くわけにはいかない。にこにことして菓子を摘むアンナを見ながら、どうやったら話を引き出せるだろうかと思案する。何かあるはずなのだ。話したくないのか、覚えていないのか、それとも。
「話せない事情がある...?」
ふと漏れ出た声に、アンナの指先がぴくりと反応する。どうも嘘が得意な人ではないらしい。幼い頃には気づけなかったとしても、王宮で揉まれた十年は伊達ではない。話せない事情があるなら、遠縁の子を預かったなり肥立ちの悪かった担当した妊婦の子を引き取ったなり適当な話をでっち上げたらいいのだ。
そうしないのはアンナの良心か。それとも別の何か、枷があるのか。




