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【完結】贄の王子  作者: 田中1号


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古代技術(Side カイ)

 さらに二日経って、雨降らしの儀も五日目に入った。カイは変わらず書庫に赴いていた。しかし十年もかけて書庫の端から端まで調べてきたのだ。もう開ける本はないというほどに探してきた。


 最初に第一王子の血筋に関する紙切れを見つけてから、その後に見つけたものと言えば、かつての第一王子が故郷を思っていたというふんわりした日記とも判別がつかないものや、代々の国王は一貫して第一王子が即位するものの皆短命できっかり五十歳で儚くなるといった記録でしかなかった。


 唯一手掛かりそうなものは、これまた小さい紙切れに円が何十にも描かれ、今では使われていない古代文字が書かれているものだった。書庫を片っ端から調べたカイは、この国に関するあらゆる知識を身につけていたので、そこに描かれているものが「魔法陣」というものだと知っていた。


「何に使うのかねぇ、これ」


 紙切れを日に翳して見てみるが、特に変わり映えはしない。「魔法陣」というからには起動するのだろうと予測するが、いかんせん、起動方法がわからない。呪文を唱えるだの頭の中で念じるのだの、記録されていることは一通り試してみたが、うんともすんとも言わない。


 そもそも「魔法」自体が技術として失われて久しい。遥か昔は「魔法」で火でも水でも起こせたそうだが、使える人間はだんだんといなくなったそうで、好事家の間では私的な研究が行われているとかいないとか。カイもあったら便利だろうと思うが、無くなったものを復活させることに国を挙げての対応ができないことも理解できる。


「っ!」


「魔法」に関して比較的体系的にまとめられている書物をパラパラとめくっていると、スッと紙で指を切ってしまった。地味に痛いんだよな、これ、と思いながら、紙切れと書物を汚さないように除けようとしたが遅かった。カイの指からこぼれた血が一滴魔法陣を汚してしまった。


 汚してしまった、と思った瞬間、急激な眩暈に襲われ近くの書棚に手をつく。


 "オヤ、オヤ、オヤ、"


 一瞬白い世界に意識が飛び、帰ってきた。全力疾走をした後のように呼吸が安定しない。もし今、刺客に襲われたら対応できない、と冷静に考えながら深呼吸を繰り返す。


「はぁ」


 最後に大きく息を吐き出し、刹那の事象を分析する。魔法陣を眺めていた。指を切った。急に眩暈がした。何か聞こえなかったか。聞こえたというより頭の中に直接響いたような。


 少なくとも魔法陣が発動したことは確実だ。発動に必要だったのは"血"だ。


「外道な...」


 王国では王族、貴族と平民の身分差はあれど、奴隷制度は禁止されている。読み書きができなくとも人権教育は諸外国より進んでおり、先進的な王国だと触れ回っている。そのため人の心身を損なうことは罪に問われることであり、血を持って何事かを成すことなど論外なのだ。


 とは言え、姿なき声はなんと言っていた?オヤ?おや?...親?


「アンナに、会う?」


 カイは自問する。アンナとは十歳まで自分を育ててくれた産婆の名だ。リーネによって王宮に召し上げられてからは一度も会っていない。しかし、十年越しに手に入れた王国に関する手掛かりだ。縋るしかない。

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