王に似た男(Side カイ)
執務に戻ったリーネに言われ、資料を探すため書庫へと歩きながらカイは何となく王宮にあがってからのことを振り返っていた。
十年前、リーネの従者となり仕えよと命じられてリーネの後をついて回るようになってからカイはそれまでの自身の生活環境との差を感じずにはいられなかった。環境格差はもとより人の質が違うのだ。特に悪い方に。
「カイ様。」
書庫の門番が一礼する。リーネ第一王子の第一従者という立場はこの王宮では、王族を除いた貴族、従者たちの中でもトップクラスだ。軽く頷いたカイは書庫の扉を開けさせ、中へ進む。
「これは、カイ様。本日はどのようなご用件で?」
入り口横に机を構え、書庫の管理を担当する官吏にリーネからの依頼を告げ、待っている間に書庫内をうろつく。本来書庫へ赴き資料を運ぶ役割などもっと下働きのものに任せたらいいものだ。しかし、カイは本が好きなのだとリーネを誤魔化してまで、その役目を買って出ていた。ここ数年、書庫に来るたびにカイはあるものを探していた。
目当ての題目が書かれた本を手に取り、素早く目を通していく。カイにはいくつかの疑念があった。
一つ、なぜ飯の足しにもならない儀式を続けているのか
一つ、なぜ司祭は第一王子でなければならないのか
一つ、なぜ自分は現国王に瓜二つなのか
小さく鳴っている鈴の音を聞き、本を閉じて入り口近くにいる官吏の元まで行く。静かな書庫では呼び出し用の鈴の音がよく響く。資料を受け取り、執務室まで戻りながら廊下を進んでいく。すれ違った従者やメイドたちが道を開けてくれるのに愛想よく対応しながら、頭の中では先ほどの疑念を反芻している。
推測、儀式は形式・習慣的なものでやった方がいいという程度のものではないか
憤怒、司祭と言いつつ、儀式の前には食事を制限するなどおよそ高貴な身分に課せられる使命とはかけ離れているではないか
憐憫、偶然国王と似た顔立ちの自分に向けられる無遠慮な視線に説明をしてくれないか
この国唯一にして絶対権力者の持つ風貌や好みは、その治世では縁起の良いものとして喜ばれるものだ。国王によく似たカイは自分は縁起が良いですよという顔を物理的に貼り付けたまま過ごしているのと同じ状況だった。向けられる視線の中には憧憬を含むものが大多数だった。
しかし、人の口に戸は立てられない。口さがないものは言うのだ。
「カイ様は国王の隠し子ではないのか。」と。




