王家の献身(Side カイ)
リーネは魔力を持つがために、この国を安定させる役目を負っていたことになる。役目だの司祭だのというと大層なものに聞こえるが、カイにはどうしても拭えない違和感があった。
リーネが嫌がらないのを良いことに後ろから抱き込んだ体勢のまま無遠慮に尋ねる。
「魔法を使える人間に限りがあるのは分かったが、儀式の度に節制して沐浴を欠かさない、なんて本当に必要なのか?」
魔法陣は血を媒介にして発動した。体内にそもそも存在するものに影響されるなら、たかだか水に浸かるくらいで何か変わるものだろうか。食事だってもっと栄養のあるものの方がいいはずだ。
「そうしないと不都合があるんだろうね」
「他人事だな」
そうだね、と答えるリーネの声にカイは考える。儀式が祈ることではないなら、祈りという体裁をとっているだけのことになる。それを必要とするのはおそらく神殿だ。人には心の支えが必要で、祈ることだけが神との接点で、強い祈りはいつか届くだろう。そんな触れ込みをこの国の誰もが当たり前のこととして知っている。
「芝居だ」
落ちた言葉は拾えない。リーネも否定しない。
魔法の存在を隠しつつもその恩恵には預かりたい。大っぴらに魔法を使うには、魔法自体が珍しいものになり、悪用されることをきっと偉い人たちは恐れた。信じれば救われる、なんて言う不確定なものだが、不確定だからこそ断定されると人間は弱い。より強力な教えはそれを体現する人物がいることで説得力を増す。
王国において王族は絶対だ。その絶対的存在が、儀式を預かり耳目を集め、衆人をまとめ上げることに有効ならば。王族の一人や二人が傍目にも厳しい生活を送っていたとして、誰が否を突きつけるだろうか。
「まるで」
続く言葉は音にならなかった。よくできた世の仕組みに異を唱えたとしたら、それはリーネの、これまでの王族の献身を否定することになる。
「魔力は王族しか持ち得ないのか?」
もっと王国中から魔力持ちを探して、国の平定という役割を職にした方がよっぽどいいのではないか。名案だと思ったカイの思惑は、小さくふるりと首を振ったリーネの様子に砕かれる。
「王族の特権というより、魔力を持つものを王族としているんだ。」
訂正されたリーネの言葉を噛み砕く。唐突に思い出す自分への噂。国王と似ていないリーネ、反して瓜二つの自分。王家の血は一代限り。
「王の子は俺か...?」
こくりと頷くリーネを思わず突き放す。ベッドに倒れ込んだリーネを気遣う余裕はなく、片手で顔を覆う。リーネは何かに耐えるように唇を引き結んでいる。初めて見る表情にこんな時でもカイの心臓は跳ねる。
魔力が偶発的なものならば、必ずしも遺伝しないということ。おそらく微々たる魔力が自分には受け継がれ、魔法陣を発動できた。これなら説明がつく。
「リーネはどこからきたんだ?」
「...知らない。」
無表情の声音に嘘はない。十年側にいたのだ。感情がわかりにくくても言葉の間合いを読み違えることはない。
「儀式では国の平定に必要な魔力操作以外にもう一つすべきことがある。」
「...なんだ」
「次代を探すことだ。」




