望み(Side リーネ)
久しぶりにカイに会えた、と思った。カイの話によると、儀式を最後の方で切り上げたようだったが特に問題はないだろう。何せ作業自体は終わっていたのだから。
それよりも今この状況だ。腰を支えてくれるカイの警戒心が痛いほど伝わってくる。おそらくカイには見えていないだろうこの人も、この国も、自分にも秘密がたくさんあるのだ。
倒れてから間もないというのに妙に冷静な頭で、カイにマリク王に関する説明を求める。カイが側を離れて行かなそうだと判断し、少しだけカイの方に体重を預ける。すかさず察したカイのリーネの腰を抱く手に力が込められ、こんな状況なのにリーネはほわほわとした気持ちになる。
「..と、いうわけだ。」
カイは自身の出生に対する疑問から、この十年書庫で手掛かりを集めていたこと、魔法陣の発動をきっかけにマリク王と知り合ったことなどを説明してくれた。
リーネの目に映るマリク王は透き通った蜂蜜のような色の髪と瞳を持った痩躯の男だった。昔肖像画で見た通りだなと思いながら、リーネは名乗りを上げる。
「お初にお目にかかります、マリク王。私はヴェルダニア王国、第一王子リーネと申します。」
「はい、こんにちは。」
初等部の子どもの挨拶に答えるような口調で返事を返され、リーネはいささか面食らう。しかし、先ほどから誰も話を主導しないのかと気づき出したリーネは、三者の立場を加味してその場を取り成そうと考える。
まずはマリク王からだ。
「僕の主張は一つだけだよ。消えてしまいたいから、情報をあげる。」
次はカイだ。
「俺は、出自を知りたい。...それとリーネを救いたい。」
若干のためらいを振り切りつつ答えたカイの言葉にリーネは僅かに瞠目する。
「君は?」
マリク王から向けられた言葉に、何と返したら良いかリーネは無表情ながらに困惑した。自分には誰かに救われる理由も、自分の望みを叶える理由もよくわからない。そもそも何を望んで良いと言うのだろう。
「血縁がないと言うのに、本当に僕の子孫たちは似ているなぁ。君はもう少し自分の意思を持った方がいい。」
断定的なマリク王の物言いにリーネは背筋を伸ばす。いいのだろうか、いつの日かの夜に夢想したわがままを叶えてしまっても。




