願望と困惑(Side カイ)
ものの数分で神殿の祈りの間までたどり着いたカイは、神官たちを前にして声を荒げていた。あと数歩のところでリーネに手が届くのに。
「おい、放せ!」
「カイ様、おやめ下さい!まだ儀式は終わっておりません!」
「何をふざけたことを!リーネを...!」
リーネより儀式を優先する神官たちに怒りが止まらない。リーネを何だと思っているのだ。ピリピリと肌を這うような不快な感覚もこの状況も気に入らない。全力で押さえつけてくる神官たちを引き剥がし、リーネの元へ駆け寄る。日頃から剣の鍛錬を欠かさないカイと神官たちとでは力の差がありすぎた。
「ぅ...っ....」
小さく呻き声を上げるリーネをそっと抱き上げ、神官たちのあらゆる声を黙殺したカイはリーネを傷つけないように馬に乗り上げ、王宮までの帰路を急いだ。
カイはリーネを腕に抱えて馬を走らせながら、このままどこか遠くに行ってしまおうかと思った。
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リーネを連れ去ってしまいたい気持ちを抑え、まずはリーネの回復のために王宮の自室に連れ帰った。リーネの寝室を選ばなかったのは、この状態のリーネを他の誰にも任せられないような胸騒ぎがしたからだった。
リーネの体を拭き、飲み物を与え、青白い顔をしながらも先ほどよりは安定した呼吸にホッとひと息をついたところで、カイは一つの賭けにでる。
あの魔法陣に自身の血を垂らし、静かに囁いた。
「マリク、いるのか」
王族の、しかも初代国王の名を呼び捨てにするなど不敬千万であるが、知ったことかと簡潔に呼びかけたカイにマリクはあっさりと答えた。
「いるよぉ」
いささかながら緊張していたカイはその間延びした声に安心したことを悟られまいとしつつも渋面をつくる。
「あらら、そこの王子サマ大変そうだねぇ」
呼び出された意図を瞬時に察したらしいマリクは可笑しそうな声を上げる。こめかみに青筋が立ちそうになるのを堪えつつカイは重要なことを確認した。
「お前は、俺たちの味方か?それとも害なすものか?」
声の出どころに向けて鋭く問いかけたカイを具に観察したマリクは一つの感想を得た。カイの背後では王子サマが眠っている。さながら獲物を取られまいと警戒するカイの瞳は獰猛な獣のそれだった。
なかなか答えないマリクにしびれを切らしたカイが再度問いただそうとした時だった。
「そうだねぇ。僕を殺してくれるなら味方だよぉ」
「は..?」
何を言われたか処理しきれず乾いた空気のような声がこぼれ落ちる。




