混乱と焦燥(Side カイ)
まぁ、また呼んでよ、と言い残して初代国王の声は消えていった。呼んだつもりはなかったのだが、おそらく魔法陣に血をかけることが引き金になっているのだろう。
声がしなくなり、一人になったと確信したカイはその場にどっと腰を下ろす。一日の間にこの十年間で得た情報以上のものを手に入れた衝撃で混乱を極めている。自室の床に座り込んだまま茫然とする。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。窓から見える空は濃紺の色合いをしている。あと数刻で夜が明けるだろう。
煌めく月の光に、無性にリーネを思い出さずにはいられない。
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一夜明けて、雨降らしの儀も六日目になった。明日の夜にはリーネも神殿から戻ってくる。無事でいてくれと願いながら、リーネの自室と執務室を整える。
毎度の儀式の終わりにリーネは三日ほど寝込むのが常だった。節制を強いられ精力的に儀式に臨んだ後でリーネはいつも力尽きてしまう。そんなリーネを見ていることしかできないカイは、言いようの無い悔しさに何度歯噛みしたことだろうか。
「リーネ...」
無意識に名を呼び、そんな自分にハッとしたカイは自分の立場を呪った。王家の血が頭をよぎる。第一王子は王族ではないらしい。それが本当なら本物の第一王子はどこに?なぜ自分は現国王に似ている?魔法とやらもまだあるらしい。儀式は形式的なものではなかったのか?ならなぜただただ祈り続けるだけのはずのリーネは毎度今にも儚くなりそうな顔色で儀式を終えて戻ってくるのだ。
昨夜から幾度となく繰り返した問答から逃れられない。関係のない憶測同士を独立して考えるべきなのに、一連の事象として紐づけた方がしっくりくる気がするのだ。
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さらに一夜明けて、雨降らしの儀も最終日だ。夕方になると馬車で神殿から戻ってきたリーネを迎えに行く。今回もそのつもりだった。
リーネを迎え入れるための準備の最終確認をしている時だった。慌ただしく響く足音に何事かと、廊下へと続く扉に目を向けたカイの耳に知らせが届く。
「カイ様に申し上げます!リーネ様がお倒れになったとのことです!」
肩で息をする伝令の声に返事をしないままに部屋を飛び出したカイは、剣と馬を用意し神殿まで駆け出す。王宮と神殿にそこまでの距離はないものの、どうしてかひどく遠く感じられた。




