↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青鳥島の夏合宿 ~陰キャでぼっちな俺が、引き籠もり女子と孤島に向かった~  作者: シッポキャット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/60

54 殺意

「根本さんを見殺(みごろ)しには出来ません。一応(いちおう)……友(・)だ(・)ち(・)なので」

俺が虫除(むしよ)けスプレーを取り出して立ち上がると、津田美子(つだよしこ)は回転椅子に座ったままシダ箒(ほうき)を握った。

「秋月先生がどこに隠れているのか分からないが、我々が外に出るのを待ち構(かま)えている可能性もある。馬鹿正直にドアから出るのは愚策(ぐさく)だろうな。一体どうするつもりだ?」


「宿舎の床下(ゆかした)――コンクリート製の倉庫以外は、支柱(しちゅう)の合間(あいま)を縫(ぬ)って移動できるようでした。根本さんはそこに潜(ひそ)んで宿舎内の様子を窺(うかが)っているかも知れません。気づかれないように床下へ潜(もぐ)り込めば、彼女を発見できるかも」

俺の返答に、津田美子は呆(あき)れた表情を浮かべて腕を組んだ。


「なぜそんな事を……いや、今はそれどころじゃない。硬(かた)い床板(ゆかいた)を引き剥(は)がす手間(てま)と時間を考えると、多少のリスクはあってもドアか窓から出る方が早い。

 覚悟を決めて表(おもて)へ出るか? 根本遥(ねもとはるか)が先に見つかれば、彼女を保護して情報を共有し、今後の対策を練(ね)るという手もある。

 もし秋月先生と鉢合(はちあ)わせたら――応戦(おうせん)するか、逃げるか……あわよくば拘束(こうそく)して、事情を訊(き)くことが出来るかも知れない」


「一先(ひとま)ず俺が様子を見て来ます。床下に潜(もぐ)り込めば、いくら殺人鬼に豹変(ひょうへん)した秋月先生に追いかけられても、派手な動きは出来ないと思います」

「確かに……動きの取りにくい床下で、二対一の優位性はあまり見いだせないな」

津田美子はシダ箒を離(はな)して再び腕を組んだ。


「津田先生はドアと窓の鍵を締めて休息を取っていてください。帰還(きかん)の合図はノックを続けて五回。とりあえず今から三十分を目安に探索して来ます」

俺は腕時計と壁掛け時計の時刻を確認し、津田美子と目を合わせた。


「危(あぶ)なくなったら迷わず逃げろ。明日の正午まで無事だったら、必ず迎(むか)えの船が来るからな」


 俺は津田美子にペンライトと護身用(ごしんよう)の医療用はさみを借(か)りてトイレへ向かった。トイレタンクの上に、曇(くも)り硝子(ガラス)の上げ下げ窓がある。

 根本遥が脱走した時と同じ道筋(ルート)。窓の両サイドには遮(さえぎ)るものが無く、見通しは良いはずだった。俺は音が鳴らないように慎重に窓を上げ、息を潜(ひそ)めて左右を確認する。


 ウッドデッキに人影は無く、しんと静まり返っている。反対側にある勝手口は閉まったまま。突然ドアが開いて襲(おそ)って来たとしても、対処できるだけの距離はある。

 俺は意を決してタンクに足を乗せ、窓から外に出た。後ろで待機していた津田美子が、静かに窓を下ろして施錠(せじょう)した。


 俺は念のため医療用はさみを逆手(さかて)に持って縁(えん)の下(した)を覗(のぞ)き込んだ。左手に持ったペンライトをつけて周囲に目を走らせる。急いで床下に潜(もぐ)り込み、呼吸を整えながら匍匐前進(ほふくぜんしん)で先へ進んだ。


 前回床下は暗闇だったが、今は配管や支柱の切(き)れ間(ま)から外の光が朧気(おぼろげ)に差し込んでいる。中央に向かうほど漆黒(しっこく)の闇が広がっていて、配管を通る水や発電機の鈍(にぶ)い音が間近で響いていた。共鳴(きょうめい)するように心拍数が上がり、不安の渦(うず)に飲み込まれそうになる。


 周囲に根本遥の気配は無い。すでに秋月令子(あきづきれいこ)に見つかっていたとしたら……。


 無惨(むざん)な最期を遂(と)げた参加者たちの亡骸(なきがら)と、無邪気な根本遥の姿が重(かさ)なる。同時に不安は急速に冷(さ)めていき、徐々に落ち着きを取り戻した。

 そして――秋月令子に対する殺意(さつい)にも似た攻撃的な感情が沸々(ふつふつ)と湧(わ)いてくる。


 俺は医療用はさみを握り締めたまま、高ぶる気持ちを抑(おさ)えることが出来そうになかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。