53 皆殺し
津田美子は短くなった煙草を空き缶へ落とし、背もたれに体をあずけて首を回した。
「君の考えは過激すぎる。正否は別にして……やはりここだけの話にしておいた方がいいな。
ともあれ、馳と布引の死亡を確認した後、私と田中先生は秋月先生の指示で二人の遺体を倉庫へ運んだ。
そして私は医務室で金田と曽我部の経過観察、秋月先生と田中先生は説明会の打ち合わせをするために、職員室に向かった」
俺は相槌を打って津田美子の話を繋いだ。
「秋月先生と田中先生の間でどんなやり取りがあったか分かりませんが、朝の説明会で、田中先生が奥歯に物が挟まったような発言をしていました。田中先生はその時すでに、秋月先生に疑惑の目を向け始めていたんだと思います」
「それは君の主観的な印象かも知れない……」
津田美子は溜息をついて腕を組んだ。
「津田先生はこの合宿の総務も担当していると言ってましたよね? この島に先乗りして、備品の数や機器の動作チェックはしていましたか?」
業務監査のような俺の唐突な質問に、津田美子は姿勢を正して答えた。
「当然だ。私は危機管理のマニュアル通りに、事前にチェックを済ませていた。ここは本土から離れた孤島だからな。発電機や物資の不備は参加者たちの生命に関わる重大事態につながる」
「実は朝の説明会で――本土と連絡を取るための無線機が上陸当初から壊れていた事を聞かされました。津田先生は、ちゃんとチェックをしていたんですか?」
俺が問い質すと、津田美子は不満げな顔を浮かべて言葉を返した。
「君たちが上陸する前、私は無線で本土の職員と受け入れ体制の最終チェックを行った。つまり午前中、無線は問題なく使えていたんだ。意地悪な言い方をすれば……君たちが上陸するまでは、無線機は故障していなかったわけだ」
俺と津田美子は目を合わせたまま、数秒間黙り込んだ。
「秋月先生は自分に疑いの目が向けられる事も織り込み済みだったんだな。田中先生を始めとして……合宿の参加者たちを一人残らず殺害し、疑惑の芽を潰していくつもりか。
点滴の異物混入や毒茸、AEDのケーブルを使った絞殺や仮眠室のベッドで頸動脈を切られた惨たらしい殺害。すべてが繋がり、私を陥れるための物語が……出来上がりつつあるな」
津田美子は苦笑いを浮かべて言った。
死人に口無し――。生き残っている津田美子、俺、根本遥の三人は、秋月令子にとって不利な証言を警察に話す恐れがある。
「津田先生の予想通りだとすると――秋月先生は迎えの船が島に到着する前に、できるだけ早く……仕事を終わらせる必要がありますね」
俺が発した言葉に、津田美子は険しい顔を浮かべた。
「これまでの状況を振り返ると、殺害された被害者たちはいずれも、眠っていたり意識のない状態で襲われている。
内側から鍵を掛けて籠城している我々は、じっとしていれば、万一敵が侵入して襲ってきても対処できるだろう。だが……外で単独行動をしている根本遥。やはり彼女が心配だな」
津田美子は俺の心境を探るような眼差しで視線を合わせた。
根本遥――人を駒のように動かして、高みの見物を楽しむような……茶封筒と思われる少女。彼女は俺にとって、いかなる存在なのか? 気持ちを纏めようとしたが、すぐに答えが出せない。
ただ、動かなくなった彼女を想像すると――胸が締め付けられるように苦しくなった。




