51 理由付け
「他人の心の中を推し量ることなんて出来ないと思います。根本さんと画鋲混入事件の犯人について話し合った時、彼女は動機なんて考えだしたら切りがないと言ってました」
「確かにな。人は理解できない物事に何かと意味や理由を付けたがる。そうする事で自分を納得させて安心したいんだ。
情けない話だが、頭の固い私に君の考えを聞かせてくれないか? 人一倍責任感があるように思えたあの秋月先生が、平気で子どもたちを殺すなんて事が――分かっていても、どうしても納得できないんだ」
津田美子は残りの缶コーヒーを一気に飲み干して、こぼれ落ちそうになった煙草の灰を空き缶の中に落とした。
俺は勧められた缶コーヒーを口に含んで思考を整理する。この合宿で起こった事件の全体像を纏めておいた方が、漠然とした不安を少しでも解消できるような気がした。
「わかりました。だけどここだけの話にしてください。憶測に過ぎない話に責任は持てませんから」
津田美子は俺の保険をかけたような言い回しに呆れつつも、腕を組んで話を聞く態勢に入った。
「秋月先生が一連の事件の犯人だと仮定して、まずは事件の流れを順を追って整理していきたいと思います。
この島に渡航する船の中で、第一の事件【御当地弁当の喪失】がありました。そして島に上陸後、宿舎の食堂で第二の事件【カレー鍋に画鋲混入】がありました」
「二つとも薄気味悪い事件だが、人の生死に関わるほどのものではないな」
津田美子の言葉に俺は頷き、話を続ける。
「どちらの事件も誰がやったのか定かではありませんが、二つの事件はいずれも――合宿の責任者である職員が起こすような悪戯ではありませんでした」
「なるほど。心理の逆手を取って……そう思わせるように、秋月先生が布石を打っていた可能性もあるな」
津田美子は独り言を呟き、腕を組んだまま天井を見上げた。俺は缶コーヒーで喉を潤した後、構わず話を続ける。
「その後、行方不明だった金田くんが女子トイレの個室で発見されました。第三の事件【金田龍人の絞殺未遂】です。津田先生の応急処置で奇跡的に一命を取り留めましたが、第一発見者の秋月先生が明確な殺意を持って手を下したんだと思います」
「秋月先生には金田を殺す理由があった。そういう事だな? とりあえず続きを聞こう」
「根本さんが医務室へ行き、参加者たちは食堂で晩御飯を食べた後、遊戯室に集まりました。その間に根本さんの脱走があり、田中先生が捜索に出ました。その後、第四の事件【曽我部太の毒茸中毒】が起こります」
「これも、秋月先生の仕業だと?」
津田美子は俺に確認した後、ダンボールに手を突っ込んだ。
「缶コーヒーが残り少ない。危険だが……いずれ倉庫に取りに行かねばならないな」
布引真子のインソールの下にあった画鋲の跡と中身の無い小さな凹み。それが彼女の犯行を示すものなのか、それとも秋月令子が謀った偽装工作なのか。どちらにしろ、その物証が秋月令子にとって有利な事に間違いはない。俺は肯定も否定もせずに話を進める。
「そして夜、寝室Aには田中先生、寝室Bには秋月先生が、男女に分かれて夜通し監視する事になりました」
「深夜に、第五の事件が起こった。秋月先生が監視していた寝室Bで、馳久美子が腰紐で絞殺、そして布引真子が刃物で心臓を一突きにして死んでいた。
秋月先生はこの二人にも明確な殺意があったのか? 一体どうして? 何のために?」
津田美子は煙草に火をつけ、気持ちを落ち着かせるように煙をゆっくりと吐き出した。白く広がった煙が消えるのを待たずに、俺に問い質すように鋭い視線を向けた。




