47 転嫁
「まずは、ここで何が起こったのかを整理しておきたい。君と根本遥は、すでに秋月先生の動向を疑っていたようだが?」
津田美子は廊下側のドアを施錠し、仮眠室のドアを眺めながら回転椅子に座った。
「馳さんと布引さんが命を落とした部屋には秋月先生しかいませんでした。そして、女子トイレの個室で金田くんを発見したのも、秋月先生が一人の時でした」
改めて状況を提示すると、津田美子は俺の思考を汲み取り、言葉を返した。
「秋月先生が自分の犯行を隠して――偽証をしていたと言うのか?」
「秋月先生は金田くんと馳さんを絞殺し、その犯行を布引さんに被せるつもりでした。しかし朝の説明会で、田中先生も……秋月先生への疑惑を払拭できないようでした」
「いろいろと突っ込みたいところはあるが、とりあえず続きを聞こう」
津田美子は煙草に火をつけ煙を吐き出した。俺と同様に、仮眠室のドアへの警戒は外していないようだ。
「勝手な思い込みかも知れないので、話半分でお願いします。
秋月先生は疑われている事をすでに察知していて先手を打っていた。説明会に参加した面々を眠らせるため、予め朝食のミルクティーに睡眠薬を入れていたようです。根本さんはどこかに潜んでいて、その様子を目撃していたのかも知れません」
「ウッドデッキで、彼女がペットボトルの穴を確認した要因はそれだったのか」
津田美子は空き缶に灰を落とし、ゆっくりと煙草を吸い込んだ。
「秋月先生と田中先生は俺と瀬野くんを食堂に残して職員室へ。朝食を食べ終えた後、瀬野くんは遊戯室に行き、俺はウッドデッキに出ました」
「そこで一服しに出て来た私と鉢合わせたわけだな」
俺が頷くと、津田美子は段ボールから缶コーヒーを二つ取り出した。そろそろ飽きてきたのだが……構わず話を続ける。
「睡眠薬の効果があるうちに障害の芽を潰しておかないといけない。秋月先生は意識朦朧となった田中先生を寝室Cへ誘い、首を絞めて殺害しました」
津田美子はプルトップを開け、ゴクリと喉を鳴らした。
「だが……新たな殺害をした事で、布引に罪を被せることが出来なくなったな?」
「秋月先生は田中先生の死亡を確認した後、急いで医務室へ向かいました。もし津田先生がそこに居れば、寝室Cに呼び出されて――背後から襲われていたかも知れません」
俺が言葉を切ると、津田美子は厳しい顔でふうっと息を吐いた。
「私はその時、君とウッドデッキに居た。続きを聞こう」
「津田先生が不在だった事で、秋月先生は未遂に終わっていた金田くんの殺害をスムーズに実行できました」
「点滴袋に異物混入――なるほどな。睡眠薬も何もかも……すべての罪を、頭のネジが外れた医師の私に被せようとしたわけか」
津田美子は苦虫を噛み潰したような顔をして、短くなった吸い殻を空き缶に落とした。
「そして津田先生と俺はウッドデッキから食堂を通って廊下へ。寝室Cで田中先生の遺体を発見します。
その短い間に、秋月先生と曽我部くんはここで揉み合いになった。AEDがベッドの下にあった事から考えると――秋月先生は曽我部くんの寝込みを襲ったんじゃないでしょうか。
しかし途中で気づいた曽我部くんは必死に抵抗して――逆に秋月先生のストラップをつかんで、首を締めて殺害した。
根本さんの思わせぶりな言動に引きずられている気もしますけど、ここまでの流れを聞いて、津田先生の意見はありますか?」
俺が問い掛けると、津田美子は腕を組んで回転椅子にもたれた。
「確かに筋は通っていて反論は無い。しかし――何度も言うが、問題は動機だ。総責任者の秋月先生本人が殺人事件を起こして、一体何の得がある? もし君に目星がついているのなら、納得する答えを教えてくれ。
秋月先生が子どもたちを殺害し、罪を他人になすりつけようとした――その理由をな」




