32 脱走
冷静さを取り戻すよう自分に言い聞かせ、再び俺は根本遥のメモ帳を開いた。
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瀬野賢児(13)希望学園生徒
小学四年生頃から学校の集団行動に馴染めず不登校に。対人恐怖症で大人しい性格だが、虫や小動物を悪気無く虐待する冷酷な一面も。
【備考】気分を害すると自分の殻に閉じこもる傾向がある。叱る時は言葉遣いに注意すること。
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金田龍人(15)希望学園生徒
小学五年生頃から不登校。学力は小学二、三年生レベル。ソーシャルゲームに没入し、自堕落な生活を続けている。
父親にスマホを取り上げられ逆上し、ゴルフクラブで殴り大怪我をさせたことも。
【備考】スマートフォンの扱いに注意。キレる前兆を見逃さないこと。
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布引真子(17)希望学園生徒
高校一年生の時、授業中に吃音をからかわれ、不登校になる。不安や孤独感から、自傷行為をした事が何度かある。
【備考】社交不安障害。話しかける時は穏やかに接するなど、配慮が必要。
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曽我部太(14)希望学園生徒
小学四年生頃から学校の集団行動に馴染めず不登校に。クラスメイトからのいじめも確認されている。学力は小学二、三年生レベル。
大人しく温厚な性格だが、癇癪を起こすと物を壊したり暴力を振るう恐れあり。
【備考】叱る時は穏やかに、言葉を選んで対応すること。
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参加者たちはそれぞれ、公にできないような危うい爆弾を抱えている。俺は一人ひとりの様子を目で追いながら【備考】の注意書きを頭の中で確認した。
メモ帳を閉じて大きく息を吐き出す。何だか自分の悩みが他愛もないものに思えてきた。
体験入学で参加した俺と根本遥以外は、いずれも希望学園というフリースクールの生徒らしい。だが生徒同士の交流は無く、お互いの領域に踏み入らないように牽制しあっているようにも見える。
今更だが……この状況で、俺のコミュニケーション能力の改善を図るのは無理そうだ。さらに……下手をすると、とばっちりを受けて自分の身を危険に晒すことになるかも知れない。
『あたしは巻き添えを食うのは御免だから。他人の事はどうでもいい。自分を守るためなら、何だってするつもりよ』
根本遥の呟きが、ふと脳裏を過った。
俺は根本遥のメモ帳をジャージのポケットに仕舞い、チャックを閉めた。続いてズボンのポケットから黒表紙の手帳を取り出して、根本遥の一連の行動を掻い摘んで記録する。
とにかく迎えの船が到着するまで、この不気味な……危険な状況を乗り切らねばならない。俺は今夜一睡もしない覚悟を決め、時計に目を走らせる。時刻は午後八時四十分を過ぎたところ。
瀬野賢児と曽我部太は本棚の側で、漫画を畳に投げ出して眠っていた。馳久美子も窓枠に突っ伏して眠っているように見える。布引真子は部屋の右隅で、大人しく文庫本を読んでいる。秋月令子は夜の監視に備えて仮眠を取っているのか、座って腕を組んだまま目を瞑っていた。
監視役の田中忠が肩の力を緩め欠伸をしかけた時、突然向かいの医務室のドアが開いた。秋月令子と田中忠が揃って立ち上がり、入口の前に立つ津田美子に険しい顔を向けた。
「金田の容態に何か?!」
田中忠の問いに津田美子が溜息を吐き出して答えた。
「金田の容態に変化は無いよ。それよりも……目を離した隙に、隣りのベッドで休んでいた根本遥が脱走したようだ。トイレの窓の鍵が開いていたから――多分そこから外に出たんだと思う」




