24 発見
「フッ、笑える。この緊急事態にオセロなんてやってていいわけ?」
馳久美子は鼻を鳴らして言った。
「参加者は余計な事をせずに、じっとしていた方がいいんじゃないかな?」
俺が答えを聞かずに遊戯室へ向かうと、馳久美子は納得したのか、俺の後ろについて来た。
本棚の前で寝転んでいた瀬野賢児は、漫画を畳に投げ出して無防備に寝ていた。
「あいつ、わたしを真っ先に疑いやがって。あの間抜けな口一杯に、画鋲を詰め込んでやりたいわ」
馳久美子は呑気に眠っている瀬野賢児を睨みつけて舌打ちした。
「馳さんは、誰がやったと思う?」
俺がオセロ盤を置いた座卓に座ると、馳久美子はしぶしぶ向かいに座った。
「さあね。わたしは朝から胃の調子が悪くて食欲が無かったの。おかげで職員やあいつに疑われているようだし、本当に散々よ。一刻も早く家に帰りたい」
「迎えの船が来るまではどうしようもない。俺は出来るだけストレスを溜めないようにしようと思ってる」
オセロの石を石置き場に戻すと、馳久美子はチッと再び舌打ちをして、残りの石を自分の石置き場に集めた。
「どっちが先攻?」
「ジャンケンで決めようか。最初はグー」
お互いに手を突き出した時、ドタバタと廊下を走って来る音が聞こえた。
「つ、津田先生! い、急いで女子トイレに来てください!」
ノックと同時に医務室のドアを開けた秋月令子が、うわずった声で言った。
知らせを聞いた津田美子が白衣を翻して飛び出した。胸騒ぎを感じた俺は、廊下を走る二人の職員の後を追った。
津田美子は職員室を通り過ぎ、ドリフトするように廊下を左に曲がって、突き当たりの女子トイレに駆け込んだ。
「ふぅ。奥の個室が閉まってるな」
津田美子が目を合わせると、秋月令子は息を切らせながら答えた。
「何度もノックをしましたが、その、反応が、無かったので……ドアの上に這い上がって、中を覗きました」
ついて来た馳久美子が、固唾を飲んで入口から中を覗いた。つられて俺も中を見る。
「それで?」
「中に金田くんがいます。ぐったりしていて、呼び掛けても反応がありませんでした。それで、急いで津田先生を呼びに行ったんです」
津田美子は秋月令子の報告を最後まで聞かずに個室のドアを蹴破った。掛け金が弾け飛び、タイル敷の床に転がった。
「……脈がない。急いで医務室のAEDを!」
津田美子は金田龍人を床に寝かせ、厳しい表情で心臓マッサージを始める。秋月令子は脇目も振らずに走り去った。
「俺に何か出来る事は?」
「外に行った田中先生を探して呼んで来てくれ。それと、他の参加者たちがパニックにならないように配慮を頼む」
AEDを胸に抱えて戻って来た秋月令子と擦れ違うと、職員室のドアがそっと開いて、ひと仕事終えたような根本遥が顔を出した。
「廊下が何だか騒がしいけど、何かあった?」
「女子トイレの個室に金田がいた。俺は田中先生を呼び戻して来るから、あとは自分で確認してほしい」
俺は傘立ての蝙蝠傘を引き抜いて、泥濘んだ広場に飛び出した。
休み時間が始まってすぐに、俺と根本遥は砂浜に出掛けた。宿舎に戻って来ると、ウッドデッキに津田美子がいて、その後すぐに俺は面談に呼ばれた。
金田龍人はその限られた時間に、寝室で休んでいたらしい。いつ寝室を離れ、女子トイレの個室に向かったのか。自主的に? それとも誰かに呼ばれて? 緩い監視下の中で、目撃者は一人もいなかった。
俺は疑問を抱えたまま、広場からログハウスの裏手に回って田中忠を探した。一周して元の広場に戻り、雑木林の小道を突き抜けて砂浜に出てみたが、風雨で荒れた海以外に何も見えなかった。
土砂降りの雨水と泥が足の甲に滲み込んでくる。来た道を戻ると、雑木林を掻き分けて出て来た田中忠と、ようやく鉢合えた。




