25 探偵ごっこ
「なんだ、佐藤だったのか。砂浜から戻って来たから金田かと思ったよ」
ずぶ濡れの田中忠が落胆した表情で言った。
「金田くんが見つかりました。だけど瀕死の状態で、急いで田中先生を呼んで来るようにと――」
「わかった、すぐに行く!」
田中忠は泥水を弾かせて宿舎に戻って行った。
宿舎に戻り、濡れた靴下を脱いで遊戯室に戻ると、根本遥と馳久美子がオセロ盤に向かい、瀬野賢児は相変わらず本棚の前で横になって眠っていた。
俺は部屋の隅に置いていたリュックからタオルと替えの靴下を取り出して、オセロの情勢を横目に靴下を履き替えた。
「フフフ。ずぶ濡れのようね。あたしたちは、ここでしばらく待機しておくように言われたわ」
根本遥は白い石を角に置き、挟んだ石を裏返していく。
「金田龍人はどうなった?」
俺が尋ねると、根本遥はチラリと瀬野賢児の様子を確かめてから、小さな声で答える。
「津田美子のおかげで息を吹き返したわ。担架で運ばれて、今は医務室で状況を観察しているみたい」
「何があったか知らないけど、金髪男が女子便に隠れていたなんて、ほんとキモイやつらばかりじゃない。さっさと警察に通報して、迎えの船を呼ぶべきよ」
馳久美子は不満を吐き出しながら内側の白い石を挟んで、黒の数を増やした。
「職員室の壁に、トランシーバー型の無線機が掛けてあった。職員たちの協議が纏まったら、本土へ救援要請をするんじゃない? ……だけどこの荒れた天気じゃ、しばらく船を出すのは無理だと思うけど」
根本遥が目を合わせると、馳久美子はチッとまた舌打ちをした。
「根本遥――抜け目のない女。金田を捜すフリをして、職員室の中を物色していたの?」
「フフフ。早く帰りたいのはあたしも一緒。面倒な事に巻き込まれないように、予防線は張っておかないとね」
根本遥は最後のマスに白い石を置いた。挟んだ石は一つ。白と黒の数は見分けがつかないほど拮抗していた。
「もし金田龍人が誰かに襲われて、仮死状態のまま女子トイレの個室に閉じ込められていたとしたら――犯人は、彼に姿を見られている可能性が高いよね?」
俺は話題を逸らすため、二人の会話に横槍を入れた。
「あたしと一は休み時間が始まってすぐに砂浜へ出掛けたから、ちゃんとしたアリバイがあるわ。あんたはその間、一体何をしていたの? 誰かと一緒にいた?」
根本遥は俺と連携するように、馳久美子に質問を投げ掛けた。
「フッ、笑える。一丁前に探偵ごっこ? まぁ別に答える義務は無いけど、隠す必要も無いから話してあげる。
ただし……陰でコソコソ動いてる、あんたたちが集めた情報も知りたいわ。交換条件で、どう?」
馳久美子は黒い石を一つ一つ集めて、石置き場に並べていく。根本遥も、それに応じるように白い石を拾って並べていった。
「フフフ……元々そのつもりよ。だから無線機の情報もサービスしたの。一はただの狂言回しだから、気にしなくてもいいわ」
互いの石置き場には、きっちりと同じ長さの石が並んでいた。
「金田龍人の意識が戻ったら、恐らく事の真相は明らかになる。だけど……もし、それを阻止したい人物がいるとしたら――」
俺が呟くと、根本遥はクッションに身体を埋めて天井を見つめた。
「あたしは巻き添えを食うのは御免だから。他人の事はどうでもいい。自分を守るためなら、何だってするつもりよ」




