23 捜索
土砂降りの雨が広場一面を水浸しにしていく。雨音が強くなり内緒話には都合がいい。
「その時、他の面々はどうだったか覚えてる?」
「そうね……布引真子はベンチに座って文庫本を読んでた。馳久美子はぼうっと景色を眺めてて、金田龍人は甲板に寝転がって寝ていたと思う。瀬野賢児は……それにしても、降ってきたわね」
根本遥はペットボトルの蓋を締めて両手をポケットに入れた。
「……それでその後、曽我部太の動きは?」
「見張り役の田中忠の様子を確認した後、お腹を擦って――たぶん下痢のフリだと思うけど、またすぐに船尾に向かったわ。今度は少し長かった。そして、また同じ場所に戻って来たの。満足そうな笑顔を浮かべてね」
「一度目の移動で御当地弁当の匂いを嗅ぎつけ、二度目の移動で弁当をくすねた。その足でトイレへ向かい、トイレで弁当を食べた?」
俺が根本遥の予想を代弁すると、根本遥は白い息を吐き出した。
「その後、もう一度お腹を擦って船尾に行ったわ。一つじゃ物足りなかったみたいね」
「……残りの弁当を処分したのは誰か。素直に考えれば曽我部太だけど。肌寒くなってきたから、中に入ってオセロの続きでもどう?」
俺と根本遥が遊戯室前の廊下に戻って来ると、寝室のドアの前で三人の職員が険しい顔をして立ち話をしていた。
瀬野賢児は相変わらず寝転んで漫画を読んでいたが、面談中の馳久美子の姿は見えなかった。俺はただならぬ空気を感じて、職員の側に駆け寄った。
「何かあったんですか?」
俺が問い掛けると、三人の職員たちはお互いに目を合わせて押し黙った。二人の女性職員は、発言を田中忠に委ねたようだ。
「……騒がないと約束できるか?」
重苦しい表情を浮かべた田中忠が押し殺した声で言った。
俺が根本遥と目を合わせ頷くと、田中忠は状況の説明を津田美子に丸投げした。
「医務室の二人が眠っているのを確認した後、私は寝室Aの二段ベッドで休んでいる金田龍人の様子を見に行ったんだ。
ぱっと見、静かに眠っているようだから安心したんだけど――頭まで布団を被って寝息の音も聞こえない。ちょっと変だな、と思って様子を見てみたら……布団の中にはタオルケットが入っていて、もぬけの殻だった」
「フフフ。死体だったら面白かったのに」
根本遥は不敵な笑みを浮かべた。
「この雨だから、外に脱走していたらずぶ濡れになっているだろう。とにかく面談どころじゃなくなった。秋月先生は宿舎の中をもう一度虱潰しに探してください。津田先生は万が一の事があるかも知れないから医務室で待機。オレは宿舎の周辺を探してみる」
田中忠が指示を出すと、職員たちはすぐに動き出す。
職員室のドアを開け雨合羽を羽織った田中忠を根本遥が呼び止めた。
「あたしも探すのを手伝っていい?」
「外は危ないから宿舎の中だったらいい」
足早に田中忠が出て行くと、根本遥はニヤリと笑って職員室の中に入る。入れ替わりに、馳久美子が怪訝そうな顔をして出て来た。
「何かあったの?」
マスク越しだが、初めて馳久美子の声を聞いた気がする。
「金髪の金田くんがいなくなって、職員が手分けして探してる」
俺は必要最小限の言葉を返して、職員室のドアを閉めた。根本遥はこの機会を利用して、職員室の中を物色するようだ。
「馳さん。ヒマだったら、オセロでも、どう?」
俺はダメ元で、馳久美子を遊戯室に誘った。




