22 情報交換
俺はトイレの個室に入り、がま口からメモ帳を取り出して、面談の内容と職員室の配置を書き込んだ。黒表紙の手帳には根本遥との砂浜での会話と、その時の印象を思い出して纏める。
トイレは職員室を左に折れた廊下の突き当たりにあり、用を足して戻ると、秋月令子が馳久美子を連れて職員室に入るところだった。
馳久美子はポケットに両手を突っ込み、面倒臭そうな顔をして中に入った。俺の勝手な想像だが、他の参加者たちが職員たちの質問に、まともに答えるとは思えない。
ボイスレコーダーの録音が果たして役に立つのかどうか。盗聴に加担した自分に後ろめたさを感じながら、俺は開放された遊戯室の中を覗いた。
手前の座卓でオセロをしていた根本遥と津田美子が俺に気づいて会話を中断した。
「さてと。医務室の二人と、寝室で寝ている金田の様子を見てくるよ。あとは頼んだ」
津田美子は俺にそう言って立ち上がった。オセロ盤は白と黒の数が拮抗している。
俺はチラリと根本遥と目を合わせた後、奥の様子を確認した。隅の本棚の前で、瀬野賢児が寝転んで漫画を読んでいた。
「黒であんたの番だけど、先に話を聞かせて」
根本遥は医務室のドアが閉まったのを確認してから、小さな声で俺に言った。
俺はがま口からメモ帳を取り出して、オセロ盤の上で開いて見せた。
「これが職員室の配置。手前の向かい合ったソファーで二対一で面談をした。ソファーの左隅に黒いゴキブリ避けが置いてあったから、それが何か尋ねるフリをして……それにアレを貼り付けた」
「そんな所に? あたしが回収するまでに、気づかれないことを祈るわ」
津田美子が医務室から出て来て、金田龍人がいる寝室に向かった。
「まずはじめに、根本さんと俺の関係を聞かれた。勝手な想像だけど、画鋲事件に関しては、根本さんが指示役で俺が実行役だと疑われているんじゃないかと思った」
俺は瀬野賢児の様子に意識を向けながら、小さな声で伝えた。
「あんたは一見、気が小さくて従順に見えるからね。田中忠はバスの中であたしと一の様子を間近に見ていたから、そう判断したのかも」
「俺と根本さんの間に主従関係が無いこと。それと、俺は引っ込み思案の克服、根本さんは親を安心させるため。合宿に参加した理由をきちんと伝えて、遠回しに否定しておいた。根本さんの事情を勝手に喋ったのは悪いと思ったけど、この際大目に見てほしい」
「フフフ。一らしい清廉潔白な回答ね。相手が信じるかどうかは別だけど」
根本遥はオセロ盤をそのままにして腰を上げた。
「まだあたしの面談まで時間があるから、外のウッドデッキで話さない?」
玄関で靴を履いて外に出ると、ぽつぽつと小雨が降り始めていた。
「船の上で御当地弁当が消えた件について。あんたが呑気にうたた寝をしていた……その時の状況を話しておこうと思う」
根本遥はジャージのポケットからペットボトルの緑茶を取り出して言った。
俺は次第に早くなってきた雨脚をぼんやりと眺めながら耳を傾ける。
根本遥は小さなメモ帳をテーブルの上に置いて話を始めた。
「出港してから最初に動き出したのは曽我部太。船尾に行って、またすぐに戻って来たから、まぁトイレだと思うけど。
問題はその後……彼は元居た場所に戻らないで、船尾に近い場所に居座った。チラチラと周りを窺うような態度をしてね。
何だか怪しいと思ったあたしは、デッキに寝転んで気配を消しつつ眠ったフリをして、注意深く観察していたのよ」
根本遥はゴクリと一口、緑茶を飲んだ。




