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偏差値71の妖怪怪異譚  作者: 暮葉畏啓
語り手は僕。故に物語は決して決して始まらない。
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8/61

物語は尾根に到達した。ここからは堕ちるのみ。

「今からお前は天狗たちの仲間入りを果たす。歯を噛み締めて、死を受け入れろ。」


血生臭い畳の上で僕は叫ぶ。目の前の女に向けた、僕の全力で最大の威圧。


彼女は、猫又の答えも僕の懺悔の思いも、全てあしらった。面倒そうに睨みながら、勝手な考えで行動した。そして奴は嘘をついた。僕は人間じゃない、悪鬼だ。それは猫又の言葉だ。あの優しい化け猫の思いだ。それは今この部屋で、僕と猫又の唯一繋がった気持ちだ。だからこの嘘を付く奴を僕は許さない。これだけは許せない。僕は許してはいけない。


猫又は友達なのだから。僕が悪鬼だという言葉は、ただの怪異の言葉ではないのだ。僕の人生初めての心を許した友達の言葉なのだ。


怒りの眼が封怪に達した。それでも彼女の腕は弛緩したままで、変化はない。彼女は依然として僕を見下ろしたまま何も言わない。その様子が悔しくて自分を見失いそうで、だから僕は足を前に出した。


右足を。左足を。そして全身を。疾風のごとく、とは行かないがそれでも全力で駆ける。するどく風を切って僕の上体は前に出る。封怪に一寸ばかり近づいた刹那、僕は右拳を振り上げる。彼女の顔に。その顔に。当ててやる。


彼女の顔に僕の拳が当たるその瞬間。彼女は僕の拳を受けた。左腕で攻撃を流し、そのまま反対側の手で、鉄の塊のような拳を作る。そして僕の腹に深く打ち込む。


静かに重い一撃。殴られた腹は収縮し波のように体が全体に伝わる。ぐわんと振動が全身を伝った後そのまま僕は倒れた。頭から勢い任せて畳に。受け身など取れない、半分気絶状態だった。


最後に見えた彼女の顔は、ひどく眉間にしわを寄せて、ひどくつまらなそうな顔をしていた。それだけが見えた。


とても悔しかった。




「おい、何してんだ。てめぇ」


声が聞こえる。女ではない、渋い声だった。


「てめぇ、それでも上級怪異かてめぇは。人間如きに負けるなぞ、落ちたもんだな。わしの血統は。」


血統…?あんたは、誰なんだ。


「どうやらてめぇは、その力の使い方を知らねぇようだな。そのままじゃ本当にあの女に殺されるぞ。」


力…?それは一体…


「お前は鬼。大江山に住まう由緒正しき鬼一族の末裔。負けることは許さない。このわしが。」


鬼…。


「あぁ、鬼だ。その鬼だ。」


やっぱりそうだったのかよ…猫又、合ってたじゃねぇか。


「さぁ大江山の鬼よ。今こそそ目を覚ませ。失われし使命を受け継げ。たとえお前が純血でなかろうと、その身を我ら一族が見捨てることは決してあらん。」


…。


……。


何かが入る、僕の体に。痛みは和らぐ。活力がみなぎり、力が溢れる。全身が増大し、感覚が鋭くなる。


木々のざわめき心臓の鼓動。敵の眼光。そして気配。すべてが手に取るように扱える。


この世の支配権を得る。万物の運命を決める力。


全てを調整する圧倒的な怪異。大江山の鬼。その鬼一族の血統。思い出す。使命を。


そうだった…僕は…だからあの時も。ならば僕は目覚めるしかないだろうな。それが怪異の宿命だ。


ああ認めよう。怪異である僕を。譲ろう、語り手としての僕を。語られる側の存在に堕ちようではないか。


時計の針がまた一刻進む。倒れた体が起きあがる。閉じた目が再び開かれ黄金を示す。常軌を逸した巨体が姿を見せる。


終焉帝、鬼の復活だった。







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