一方が落ちればもう一方は上がる、それがたまたま逆になっただけ僕とあんたは。
「世界と語りを引き剥がしたこと、それがお前の罪状だ。」
…そんなもの知らない、それにどうでもいい。
「お前はではなぜここまで来たんだ?」
半ば強制だろ…僕の意思じゃない。
「ならなぜ受け入れたのだ?」
僕に選択権も拒否権もなかった…僕の生活にお前らが侵食してきたんだ。
「そんな自分を受け入れてきたのも事実だろう。本当に嫌なら叫んでいたはずだ。」
ああ、いま叫んでるよ。
もう声は聞こえなかった。そいつは気付けば消えていた。勝手にやってきて勝手に去るもの。僕は拳を床に叩きつけた。怒号が聞こえた。
「もう、おわりだよ。やってしまったんだ、僕は。もう償えない。」
その言葉に答えるものなんていない。僕はヤシロに祀られた鏡を割ってしまった。それだけでなく償うことを諦め反逆した。僕はもう、どう頑張ったってどうにもならない、もう僕を救うことはできない。怒号が激しくなる、耳が痛い。
物語はどんなに頑張ってもこの僕を救うことなんかできないんだ。
積まれた蔵書は僕が別の世界線で出会ってきた怪異の記憶のように思えた。でも記憶なだけ、ただの過去。助けてなんか…してくれない。
社が動くことはない。酒呑童子は、神は、仏は、何もしてくれない。
捨てられた…
耳が軽くなる。かけられた上からの圧力は消え失せ軽くなる。無意識的に起き上がる僕はこの瞳に静謐な部屋を捉える。この空間は僕だけしかいない。そして静かだった、もう鬼の怒号なんか聞こえなかった。
けれど、どうして…
どうして鬼はやってこない。僕を助けないのに、何で僕を襲わない。
この屋敷の頭領、それが祀られたヤシロを破壊したのにどうして鬼は…僕を…
許されたのか、僕が償いを無理やり破棄したことを。それが鬼が好む「蛮勇」だとして解釈されたのか。
償いを破棄したことが認められた…?
体は以前軽いまま。何もかもから救われたような気がする。僕に憑く悪魔はもういない。影は付いたままだけど。
もう僕は自由なのか、こんな地獄を味あわなくても良いのか。
怪異に出会わされた1週目、怪異に出会わなかった2週目。順序が追いついてからの鬼との邂逅。それから現在。
僕は怪異譚をもう歌わなくても良いのだろうか。もう正しい結末とか意味不明で僕に因果のない目標を追わなくても良いのか。
許されたのだろうか。
世界は僕の存在を許し、僕の自由を認めた。僕の行動を制限せず、怪異譚を歌う必要性を排除してくれた。
それは僕を救ってくれたことで、同時に…
同時にそれは世界を救わないという答えでもあった。




