表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/61

感情の押し売り、再来

鬼の一行が進軍する中で、僕が疲れ果てた時、そばにいた鬼が肩に乗っけて走り出した。そのまま僕は風を切り、空を駆け、光の矢の如き速度で大江山に到着した。森の怪異には出会わず大江山には大きな鴉が待っていた。黒くて足が三本、八咫烏だろうか。荊芥爺が突如、先頭を超えて一人、その大きな八咫烏に近づく。それから右腕を上げ、印を作ってからお辞儀でもすると八咫烏は虚空へ飛び去った。


そのまま荊芥爺は僕に振り向き、ドヤ顔とも言える顔つきでこう言った。


「どうやら間に合ったようじゃぞ。」


そのまま荊芥爺は暗闇、八咫烏が飛び去った闇の向こうへ突入して行った。


何が間に合ったのか、なぜドヤ顔したのか…僕にはいずれも分からなかった。けれども朗報であったことはなんとなく分かった。僕を乗せてくれていた大きな青い鬼が言う。


「荊芥爺はあの顔の通り、動物には顔が利いてな。遠い昔じゃが薬草屋をやっておったんだ。」


僕はどう返事すれば良いか分からず鬼神相手に…あ、そうですか。とだけ言って肩から降ろしてもらう。


そして大地に足をつけて僕は歩み出た。向かうは大江山の鬼の頭領、酒呑童子。


その姿がどれだけ恐ろしくて大きくて怖い存在であっても泣くわけにはいかない。


ここまで来たのだ。僕は語りの償いを、そして猫又との盟約をこの世界で、しかと果たさなければならない。盟約に関して言うと、僕は助けられる側だ。けれども弱音は吐いてられない。それが弱者である僕の出来ることなのだから。それに語りは強気の方がいいとも言うしな。


「懐かしいな、蛾厭。あの木を覚えておるか。雷鳥の巣があった木じゃぞ。」


僕は歩く、大江山の土を踏んで。思い出話が背後から聞こえてくるのを無視しながら仏頂面に進む。僕が三足駆けて進んだ距離を鬼達は半歩で超える。その理不尽さに相変わらず憎み顔をする僕だが、鬼の楽しそうな回想を聞いていると許せてくる気がしないこともない。


「お前か。」


僕が進む道の先、大きな影が立っていた。背中を月に向け翼を広げる影。法衣を着て、黒い翼を背負った影。ああ、巨大な天狗だろう。背を高くするためか、カタカタ鳴る下駄を履いて、遠い林道の先で僕を見つめていた。


普通に怖い。


…だから僕は、近くにいた鬼の腰を掴む。僕の背が低いせいで腰を掴んでいるのか、それとも鬼がデカすぎるせいで腰を掴んでいるのか、その真相は分からない。けれども掴んだ鬼は僕に気がつき、そして甲高くひと笑いしてから言った。


「あいつは鞍馬山の大天狗様じゃよ。あの様子からするとあんたに用があるみたいじゃぞ。」


そう腰を下げて僕の目線に合わせた鬼は目をくりくりとさせて言う。僕に用?それは何だ、酷い冗談だろ?


「怖い、僕を殺すのがその用事ってことはないだろうか…」


目線の先にいるその天狗は片手をあげて手招きをしていた。僕は心を決めて一歩ずつ天狗に近づいていく。カタカタ鳴る下駄を履く天狗に近づくにつれ僕の足はガタガタ揺れる。木々を数十本抜け終えた後、ついにその天狗が僕に声をかけてきた。


「あの時はすまなかった、けれどもう間違いは犯さないよ。」


何のことだ…?その声は妙に優しかった。気持ちが悪い、身震いする。


「私は私の都合に囚われて関係のない君に害を与えようとしてしまった。本当にすまなかった。」


は?


その天狗は、下駄を履いているせいか、僕が蟻のように見えるくらいには大きい。そんな天狗はかのように言う。すまなかったと言う謝罪の言葉を。


…まさか記憶が無くなっているのか、僕は。二週目に入ってから天狗に出会ってすらないぞ僕は。


どう言うことだ。


その天狗は膝を折りたたんで先ほどの鬼同様、僕に目線を合わせる。先ほどと違うのは、天狗の長い赤い鼻が僕にぶつかりそうだと言うことと、天狗の目玉が大きくて怪獣に感じるような本能的恐怖を感じたことだ。思えば天狗の手は真っ赤で僕の二倍はあった。腕の太さや身につける装具の大きさも半端ではなかった。巨人ではないが明らかに規模が違っていた。規格外だった。


怖すぎる。


だから僕は身をのけぞる。歪んだ顔をして視線を天狗から外してしまう。けれども天狗は僕の肩にその大きくて赤い手を乗せて呟く。


「もう君は人間として死ななくていいんだ。償いも何も君の罪はあの日、消えたのだから。」


その言葉の意味がわからなかった。分かりたくなくて脳が拒否していたのか、単に覚えていなかったのか。


この天狗は何を言っている。何を知っている。そして僕は何か忘れている…?


結論としては僕が忘れていたようであった。その証拠かどうかは分からないが、僕は見てしまった。僕の前でしゃがんでいる天狗のさらにその奥、木々の間に染みる暗闇から顔をだす小さな子供の姿を。


天狗の子供…?


「あれ、は。」


僕の思わず出てきた呟きに、目の前の大天狗は嬉しそうにニヤけながら言う。


「私の息子だ。生きている。」


まさか…


その言葉に僕の脳に蔓延っていた全ての謎が結びつき、理解する、この世界のことを。


そして悲壮な顔のまま世界に恐怖し俯いた。


…駄目だろ…これは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ