秋を語らない。せめて叛逆させてくれ。
驚いた。目が覚めた。目が開いた。
「死んだはずだ…」
手足の感覚が残っている。呼吸の揺れも、心臓の鼓動も感じる。
「死んだはずなのに…いや、死んだのに…」
口から声が漏れ出る。漏れ出た声は世界に羽ばたく。まるで僕の寝起きを全世界に拡散するためのようだった。
「俺がお前を戻したのだ。」
声を聞いた。低い声。男の声。後ろから。
「待っていた。」
それが誰の声か振り向かずともわかる。
「そうか。」
僕は呟いた。男は吐き捨てる様に言う。
「お前は物語を語りたいか?今もなお、語り手になりたいと思うか?」
その問いは残酷だった。いまだ起き上がらずに仰向けのまま静止しているけれど当然僕の顔は歪んだ。
「答えは、NOだ。けれど世界は僕に押し付けるのだろう?」
驚いたのか、何故か笑い声が聞こえた。
「叛逆は大変だ。特に前例のないことは特に、な。でももう前例はある。」
そのまま続けて僕は言う。
「僕が前例を作った。」
その声は乾燥した空に向かって拡声する。意識が覚醒したばかりの寝起きの僕には空が眩しかった。けれど仰向けのまま会話を続ける。奴は言った。
「お前は、今でも怪異譚を歌いたいと思うか?」
今度は僕が笑う。
「怪異譚は歌うものだ。」
その答えにまた笑い声が重なる。何がおかしいのか。僕は言う。
「この世界が残酷だと言うことは理解しているつもりだったけれど、身をもって捨てられると悔しいな。」
男は沈黙する。風が通り抜ける。
「お前はどこまで気付いた?」
その言葉には興味と恐れが含まれている様で…擦れていた。
「僕が知っている範囲までならどこまでも。それでも僕の語り自体が間違っていたことには気づいている。今更訂正を入れるべきではないけれど。」
男は沈黙した。風が通り抜ける。
「この世界は面白いね。間違った語りでも語らせてくれるのだから。」
「何も真実だけが必要なわけではない。けれど真実が必要であることに違いはない。」
最終的に真実を語ることができれば、それで良いのか。
「そうではない。真実を知った上でお前がどう行動するかが大切だ。」
真実を知れば動けなくなると思うが。
「ああ、けれどお前は今動ける様になった。」
今度は僕が笑う。笑うしかないのだ。
「再起の手筈はこちらが整えた。今のお前がもう一度やり直せ。ああ、もう一度聞いて良いか?」
僕は済ました顔で答える。
「歌うよ、歌わせてくれ。」
そう言って今度は目をつぶらずに状態を起こしてみせる。
そして振り返ってみせる。
「ほらな。」
僕はまたまた笑ってニヤけて答える。
「影がないっていうのが最近のファッションかよ。眠りすぎて今気づいたわ。」
笑い声が二つ、空を駆けて広がった。




